その、劣情の底に





久しぶりに4人でご飯を食べてから数日。結局俺はあれ以来勝威さんとは何も連絡をとっていない。書いて消したメールは何通もある。だけどどうしても送信ボタンが押せない。

ただし、携帯電話だけはいつも肌身離さず持っている。

受け身な姿勢は相変わらずだ。自分で自分が嫌になる。


ある日の昼休み、昼食を食べた後に自販機へジュースを買いに来たとき、胸ポケットに入れていた携帯が振動した。表示された名前に心臓が跳ねる。


…勝威さんだ。


受信メールを開くと、そこには一言だけ。「 上 」と。

上?何気なくその場で上を見上げると、屋上へ続く螺旋階段の一番上にいる勝威さんと目が合った。そのまま背を向け屋上のドアへ入っていく。

…ついて行っていいのかな。

僅かな期待を胸に階段を上る。期待するのは怖い。だけど抗えない何かがある。俺に対する行動の、勝威さんの意図がわからない。

気まぐれでもいい。気まぐれじゃいやだ。

2つの感情が交差して、ずっと答えは出ないままなんだ。



屋上のドアを開けると、強い日差しが降り注いだ。今日は風がなくて暖かい。

昼休みも終わりに近づいている。学生は誰も残っていなかった。この時間にここにいるっていうことは、もう5時限目の授業には確実に間に合わない。


「鷹臣、こっち。」


声の方を振り向くと、壁に背を預けてベンチではなく地面に座る勝威さんの姿を見つけた。近づいて隣に腰を下ろす。

「…勝威さん、サボリですか。」
「今日は天気がいいからな。」
「そういえば俺、授業さぼったの生まれて初めてかもしれないです。」
「…お前はほんと真面目に生きてきたんだな。」

そうだよ。俺ずっと道から外れず真面目に生きてきたんだから。意味もなく授業をさぼるなんてあり得なかったのに。


「鷹臣、膝かして。」


そう言ったあと勝威さんは足を伸ばして座っていた俺の膝を枕にして横になった。仰向けになり、すぐに寝息が聞こえてくる。この人眠りにつくの早すぎないか。

膝に伝わる体温にドキドキした。無防備な寝顔はいつもより少し幼く見える。少しはだけた胸元には、もう何の痕も残っていなかった。

あの印をつけた誰かの気持ちが俺には痛いほどわかる。

牽制なんだ。きっと。

自分以外の、他の誰かへの。

初夏の日差しは暖かく眠気を誘う。遠くで鳴るチャイムの音を聞きながら気がつくと自然と目を閉じていた。



………ん?

まどろみの中、ある違和感を感じて目を覚ます。

どのくらい意識を飛ばしていたんだろう。俺、勝威さんを膝枕したまま座って寝てたよな。何で今俺が仰向けで横になってるの?

「勝威さん…?!なんで…っん…」

上に跨っていた勝威さんの顔が近づき唇を塞がれる。上唇と下唇を交互に啄ばむようなキスの後に舌が侵入してくる。

俺の舌へは触れず歯列をなぞる。前歯から奥歯までその感触が伝わって、歯も感じるんだなって。戸惑いの中思う。

勝威さんに触れられるたびに自分でも知らない部分をどんどん明かされていくようで怖い。そしてなによりも、この人とキスをしているっていう事実だけで追い込まれ高ぶっていく。


「…勝威さん、だめです、人が来たら…っ」
「人なんて誰もいないだろ。」
「でも…」
「鍵閉めてあるから大丈夫だって。」


……いつのまに。

というか今は一体何時なんだろう。授業はもう始まっているだろうけど、5時間目?それとももう6時間目に突入しているのかな。

「おい、余計なこと考えんな。」
「え…っ、あっ!」

勝威さんが俺のベルトに手をかける。あっという間に緩められ、できた隙間に右手が滑り込む。

最悪だ。恥ずかしすぎる。なんで俺ほんとキスだけで勃っちゃうんだろう。童貞だからなのか、それともこの人のキスが異常にエロいせいかな。下着の上から揉まれながら耳たぶを舐めとられ、半立ちだった俺のモノはその刺激ですぐに硬さを増した。

「はぁ…ほんとに…っ、やばいからっ…」
「…いいから大人しくしてろよ。……それとも、もっと善くしてやろうか。」
「え?」

そう呟くと勝威さんは体を起こし、上に跨ったまま俺の下着ごとズボンを下にずらした。
こんな屋外で外気にさらされた自身を目の当たりにし羞恥で頭が真っ白になる。

でも本当に恥ずかしいことは、次の瞬間起こったんだ。


「勝威さん!それは…!」


俺の股間に顔を埋め、根元から先端まで一気に舐め上げる。

思わず体を起こし勝威さんの頭を引き剥がそうと力を込めるけれど、その手を払いのけて今度は深く咥えられてしまった。

「あ…っ、あ・あ、だめ…っ」

初めての感覚に目の前がチカチカする。


「…我慢するなよ、お前だって、したいだろ。」


言われた瞬間、ハっとした。

したいよ。そうだよ。誘われてここに来たってことはそういうことなんだ。いい加減自覚しなきゃ。


俺は勝威さんに触られたいんだ。


勝威さんの口の中の暖かさと、吸われながら同時に這いずり回る舌の感触と、動くたびに耳に届く湿った音と、俺の腰のあたりを撫で回す大きな手。

なにもかも。その全部が俺を絶頂へと押し上げていく。

「あ、あ…っ、しょぉいさん…っ、は、はなれてください…」

正直に言うとこのままもっとずっとこの快感に浸っていたい。でもやばい。もうすぐいっていまう。もう全然我慢できない。

勝威さんは俺の声を聞くと言われたとおり動きを止めてくれた。

だけど、一瞬俺のことを見上げにやりと笑い、再度唇を近づけてさっきよりも激しく吸い上げながら右手で根元を上下に扱き始めた。

容赦、ない。

「ちょ…っ!あ、だめ…っ!あ、もう無理っ!!」

結局抑えは利かず、そのまま勝威さんの口の中に思いっきり出してしまった。勝威さんは1滴残さず口内で受け止める。

「あ……はぁ…、すみません…」

口に含んだそれをどうするんだろうとおそるおそる見ていると、自分の手の上に少しずつ垂らし始める。

その仕草が尋常じゃないほどやらしくて、喉がゴクリとなった。

そして俺の精液で濡れた勝威さんの指が、ゆっくりと俺の後ろの入り口に触れる。


「え…あの…、勝威さん、冗談ですよね…?」
「…最初痛いから、力抜いておけよ。」


そう呟くとまたキスをしてめちゃくちゃに舌を絡ませ始める。キスの気持ちよさに意識が向いていると、遂に勝威さんの指の先が俺の中に侵入を始めた。

「いって…!」

痛い。想像以上に痛い。痛みと異物感で気持ちよさなんてまったく感じない。先が少し入っただけでこんなに痛いなんて。

「う…あ、ああ…、くっ…」

どうしよう本当に無理かもしれない。苦しさで涙が滲む。そんな俺の様子を見て勝威さんは差し入れた指をあっさり抜いてくれた。

「やっぱローションないと無理だな。大丈夫か?」
「は…、はい…。」

俺の髪を撫でながら心配そうに顔を覗き込む。この人はいつも、強引さと優しさが常に同居している。

乱れた制服をきちんと正してくれた後に、今ならまだ6時間目間に合うけどどうする?って俺に聞いた。

正直なところこんなことをした後で、こんな気持ちのままで平然と教室に戻れる気はしなかった。


「…俺はもう少しここにいます。」


そう答えると勝威さんは「じゃあ俺ももう少し寝ていく。」って言ってまた俺の膝の上に頭を預け横になった。

なんだんだろう、この人は。こんなことをする意味も、また前みたいに「理由はない」って言うんだろうか。

それなら優しくなんてしないでほしい。強引に犯されたら、いっそ嫌いになれるかもしれない。


………ほんとうに?


渦巻き蓄積する感情を今だけは胸の底に押しとどめて、ただ俺は、屋上の風に吹かれる勝威さんの寝顔を見つめていた。





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