「…つるつる」
「うるせえ」
不動の後頭部を撫でてみました。怒られはしたものの、叩き落とされないところを見る限りそれほど怒ってはいないらしい。
「剃ってもこんなにつるつるになるもんなの?うるおいパネエなおい」
「何が言いたい」
「だから禿げたんじゃあ…」
「禿げてねえ!」
「そんな怒らなくても。誰もサイドハゲなんて言ってないよ」
「誰がサイドハゲだコラ」
「あ」
つい口が滑りましたごめんなさい、と謝る。「…てめえ」ぎろりと睨まれるがべつに怖くはなかった。不動が分かりやすく怒っているうちは、ちょっと照れているだけなのである。少なくとも私の頭で彼はそう解釈されている。わりと本気で殴られるのは心配したとき。軽く払うのはほんとうに嫌なとき。不機嫌オーラが充満するのが本気で怒っているとき。…あれ、可笑しいな。私の解釈だと不動はサイドハゲと言われて照れていたことになる。あれ?
「……罵られたいタイプだった?ごめんね気付かなくて」
「…はっ!?」
一気に不機嫌オーラ全開である。…違うのか。じゃあなんだ、照れてるんじゃなくて…、…そうかじゃれてたのか。冗談を言い合いたかったのか。難儀な奴だな、とこっそり溜め息を吐いた。
「あ、そうだ不動」
「……何だよ」
「私ね、不動の後頭部が好きだよ」
「は?」
何を言い出すんだお前はと言わんばかりに開けられた口は、不動の顔を滑稽に見せていて少し笑えた。おまえかわいいな。怒られるのでもちろん口には出さないでおく。「別に後頭部以外の部位も不動なら好きだけどさあ」と続ければ、彼の機嫌も幾分かよくなったようで「なら後頭部撫でるのやめろよ」と笑みを向けてくる。え、それは無理。遠まわしに拒否しようとして私の口から出た言葉は。
「だから髪伸ばしても後頭部はつるつるでよろしく」
「ふざけんな」
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