「…『拝啓、陽春の候。皆様いかがお過ごしでしょうか。この度はお気持ちのこもった罵詈雑言、暴力、そして大人の都合をありがとうございました。さすがの私も堪忍袋の緒が切れてしまいました。けれども私が生きていたら申し上げたいことも申し上げられませんので私は生きることを止めようと思います。さようなら。…さて、これで何もかも申し上げることが出来ます。まず、』…」
「やめてえええ!キノコヘアー少年ストーップ!プリーズストップ!」
「…何ですかこの無駄に丁寧な文で書かれた呪いの言葉は」
「言ったじゃん…最期のテンションだったんだよ!」
「これ、もしニュースとかになってたら読み上げられたんですかね」
「…!その発想は無かった」
「馬鹿か」
冷たい。冷たすぎる。何だこの少年は。取り敢えず手紙を回収してもらい一安心してたらこれだ。血も涙もない。…そういや私血とか涙とか出るのかな。まあいいか。今の悩みはそれではない。
「ところでだねキノコヘアー少年」
「いい加減名前覚えて下さい。日吉です」
「ところでだね日吉少年」
「何ですか」
「君の後ろのその子は何だい?」
「え?ああ、昔此処で死んだ女子生徒ですよ。最近噂になってるでしょう」
「んー?…じゃあまさか、その子の顔とかが何か凄いことになってんのは…」
「ああ、それは首を吊」
「ぎゃあああああ!」
ホラーは苦手である。言ってみた。「存在がホラーのくせに?」と鼻で笑われた。酷いな君。
「じゃあその子が微妙に透けてるのはもしかしなくても」
「死んでますからね。それを言うと、貴女は透けていませんが」
「…!それならやっぱり私は生きて、」
「首が折れているのに?」
「……」
容赦のない男である。「…っていうか何でそんなに冷静なの、」と漏らすと彼はいたって冷静に「見慣れてますから」と答えてみせた。
「え?」
「霊、とでもいいますか。こういうのはよく見かけます」
「は?」
「俗に言う霊感ってやつです。…分かります?」
待ってくれ。頼むからちょっと待ってくれ。もう一度言おう。私はホラーが苦手である。私に限った話ではなく、そういう話が苦手な人というのは、まあフィクションだよねなんて勝手に無理矢理結論付けて、その恐怖心から逃れようとするものなのだ。たぶん。だというのに、何を言い出すんだキノコ…じゃなかった日吉少年。君は今私の逃走経路を塞いでしまったのだぞ。
「しかし、貴女は妙だ。生きているみたいに見える」
「え、まじですか」
「…本当に死んでます?」
「えええ」
君がそれを聞くのか日吉少年。「取り敢えず、みょうじ先輩。その辺のもの触れますか?」とひとつ小さく溜め息を吐いたのちに聞かれ、返事をする。…ん?
「何で日吉少年私の名前知ってるの」
「は?…ああ、貴女の呪いの遺書に書かれていましたので」
「え」
「…しかし本当にえげつないことばかり書いていましたよね。しかもどうしてところどころ赤インクなんて付けてるんですか」
「ひよ…っ日吉少年あれ読んだのか!私が止めたのに読んだのか!うわああんもうお嫁にいけない…!」
「まあ死んでますからね」
私の叫び声を鼻で笑った日吉少年は、俗に言うサディストなのかもしれないと思った。因みに壁やら日吉少年やら何やらに触れることは可能であった。そういえば土下座したとき地面に頭ぶつけてましたね、とやっぱり鼻で笑われた。赤インクは血のつもりでしたとは絶対言わないと心に誓った。
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