聞き慣れた鐘の音。入って来いと命令する担任教師の声に従い、ガラリとその扉を開く。集まる視線は好奇の色に満ち、隣から感じる教師の視線は自己紹介を促していた。
「えーっと、初めまして。俺の名前は日吉なまえ、宜しくな!」
氷帝学園中等部三年への転入。男物の制服を身に纏い好印象を与えられるよう笑顔を振り撒いた。座席は窓側の一番後ろ。転入してきて間もなくこんな良い席貰っていいのか。昼寝し放題である。…おっと、愛想を忘れずに。
「初めまして、宜しくね」
きちんと隣の席の少年に挨拶する。やはり第一印象は、大切。「おう、宜しくな!」とワインレッドの少し変わったおかっぱ頭の少年は、此方へ笑みを向けた。
「俺、向日岳人。なまえって呼んでいいか?」
「おう、じゃあ俺も岳人って呼ぶな」
軽く談笑したのち、授業が始まったので睡眠学習を開始した。授業終了のチャイムで目を覚まし、小さく欠伸をする。あーよく寝た。と、女の子がぞろぞろとやってきて机に影を落とした。「ねえねえ、」声音は好奇に満ちている。
「日吉くんって、彼女いるの?」
「ん?残念ながらいないよ。もっとも、こんな俺が可愛く可憐な女の子に釣り合うわけがないから、自業自得かな」
「えーっ、そんなことないよ。私、…その、日吉くんの彼女にならなりたいかなあ…なんて」
なんて大胆な。そう思ったがもちろん口には出さないでおく。にしても自分の顔がそこまで女の子受けのいい顔だとは思わなかった。ちょっと驚いた。
「ふふ、嬉しいな。ありがとう。でも俺は君のことをまだよく知らないし、君にも俺のことをもっと知ってほしい。もしそれでも同じことを思ってくれるなら、その時はまた改めて君の気持ちを聞かせて?」
「…っ、はい!」
「えー、日吉くん私もー!」
「ちょっと、ずるいー!」
「おやおや、可愛い子猫ちゃんたちだ。皆の気持ちは嬉しいけれど、俺は一人しかいないからね。でも俺はみんな大好きだよ、…それじゃ、駄目かな?」
「あっ…あの!なまえくんって呼んでいいですか!?」
「それは何だか親しい感じがして素敵だね。なら俺も、君を名前で呼びたいな?」
「はぅ…」
「…………」
子猫ちゃんたちと戯れていたら隣で岳人がげっそりとした顔を此方へ向けていた。何事だ。タイミングよく鳴ったチャイムを聞き、子猫ちゃんたちにまたねと手を振る。岳人に話しかけられた。
「…お前、よく疲れねーな」
「どうして?可愛い子を愛でるのは幸せなことだろ?」
「タラシかお前は…」
「そんなことはない。麗しき友情だよ。因みに岳人も俺の好みだ」
「絶対友情じゃねーだろ…つーか、俺にそんな趣味は無ぇ!」
岳人を怒らせてしまったようだ。何かしたかな、俺。
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