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雪の降る夜だった。
深い森に人の声がする。

「はぁ…はぁ…」

紫色の髪を揺らしながら誰かから逃げるように
一人の女が足早に走っている。

その女の腕の中にはすやすやと赤ん坊が眠っている。

「…頑張れ…!!」

彼女の隣で一人の男が呟く。
その男は彼女の夫である。
男もまた彼女と同じ立場にあり、
誰かに追われ逃げていた。

「…どうしてこんな…あんまりよ…」

「…君は魔女だ…ここでは生きられない…」

男が"魔女"という言葉を発した瞬間彼女は悲しそうに男を見つめる。

彼女たちの世界では魔女は恐ろしい魔法を使い、
人々を傷つけるものとして存在している。

この世界は魔女の存在を絶対に許さない。
なにがあっても殺す。見つけ次第殺す。
それが、この世界の正義だからだ。

「…私は…人を傷つけたりなんか…しないわ…」

腕に抱く赤ん坊を強く抱きしめる。

「知ってる…それは世界一僕が知っているよ…だから逃げるんだ…」

追っての影はどんどん近づく。
手には鋭く光った槍が見える。
追っての数はいくつ…?


彼女は魔女だ。
魔法で追っての動きを鈍らせ、その間に逃げればいい。
でも、それがもう無理なのだ。
彼女の魔力は限界だった。
もう魔法を使うことはできない。
今の状態で魔法を使えば死んでしまう。
それも酷い死に方でだ。
槍で刺されて死んだ方がましなくらい酷い死に方をする。



2人は走って逃げてこそいたが、脳裏でこう思うのだ。
"もう無理だ"
"私たちは殺される"

彼女は思った。
私たちはもう何をどうしたって逃げられない。
でも…でも…
腕の中で何も知らずに幸せそうに眠っている
この子だけは…なんの罪もないのよ…。
殺されるなんてあんまりだわ…。

「ねえ…?ぐす…せめて…この子だけは…」
「ああ…。」

夫は彼女が差し出した赤ん坊をなるべく
見つからないように、木の陰に隠した。

「…大丈夫だ。このちょっと行った先には教会がある…。
誰かが拾ってくれるだろう。この子はきっと大丈夫さ…。」

「…ええ…幸せになりなさいね。」

彼女は微笑むとすべてを理解し諦めたように、
夫に寄りかかり、夫もまた彼女を優しく包容した。





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