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………強くつよく頭を打った。
きっと確かどこかで高いところから落ちたんだ。
どこだったけ?なんで落ちたんだっけ?
なにか悲しいことがあったような。
思い出せない…というよりは思い出したくないような。
何も思い出そうとしなかった。
思い出すことを記憶することを放棄した。


私が目を覚ましたとき、
白い部屋にいた。
病院と気づくのに27秒かかった。


彼が優しく言う。

幼なじみの彼だ。

「おはよう。目が覚めた?
 階段から落ちたんだよ。大丈夫?」

どうやら私は…階段から落ちたらしい。
足を滑らせて落ちてしまったのかもしれない。

目覚めたばかりで脳があまり機能してくれない。
なにか欠落がある気がするけれど、気のせいだ。
頭を強く打っているからそう思うのかも知れない。

「3日後には退院できるって。よかったよ。」

優しい昔から仲のいい幼なじみが私を抱きしめる。
居心地が悪くて私は嫌がった。

「…離れてよ。」

「あ。ごめっ」

「………んー…」

ズキズキと頭が痛い。
頭だけではない。
体中が痛い。
頭を触ってみれば包帯が巻いてあった。
腕にもガーゼなどの処方がされている。
痛々しかった。

「そういえば、医者が言ってたよ。 
 頭を打ったけど、脳に以上はないってさ。」


「…そっか。よかった。
 今、ちょっと気分悪いから部屋はずしてくれない?」


「ん。分かった。」


少し残念そうに彼は部屋を出て行く。
後姿が妙にゆがんで見えた。

にしても、痛い。
本当に異常はないのかな?

ただ不思議と心だけはなんだか
気持ちがいい気がする。
吹っ切れた感じがする。
都合よくあいまいになった感じがする。
この感じは何だろう?






後に母から聞いた話。
やはり私の脳には異常があったらしい。
記憶喪失
私は自分の都合のいいように都合の悪い記憶を
忘れてしまったらしい。
記憶を取り戻すには難があるらしく、
けれどこのまま生活を送っても何の支障もないらしい。

しかし、彼に嘘をつかれたことが無性に腹立たしかった。
なんであんな嘘をついたのだろう。


腹立たしいはず。
なのだけれど、
なんだか気分爽快……

この混ざった気分が気持ち悪くて
ちょっと吐いた。








  





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