一片の | ナノ


赤い花柄のワンピースを、お母さんに買ってもらった。
うちにとってはすっごく重要なことで、こんなに女の子らしい服を買ったことはなかったから、うちの歴史の中でこのことは相当な進歩の証だった。

「わぁ、礼華先輩、すっごくかわいいです!似合ってますよ!」
「そ、そう…?」
「いいなぁ。私そういう服似合わないですから。うらやましい」
「んなことないやろー。凉ちゃんかわええ服似合う筈やで!」
「そうでしょうか……」

もうすぐそこまで冬が迫っていた頃。けんけんの家に遊びに行くと連絡を入れたら、白石さんも遊びに来ることになっていたらしく、どうせならと4人で遊ぶ事になった。
だからというわけではないけれど。新しい服を着てみた。凉ちゃんはかわええって言うたけど……。けんけんに笑われたり、白石さんにセンス悪とか思われたらどないしよ、とかネガティブ方向に頭が回る。

「白石さんも褒めてくださるんじゃないです?」
「そ、そんなんで着てきた訳やないんやけど…!」
「照れない、照れないっ!」

凉ちゃんは悪戯っ子のように笑んで、うちの背中を押した。けんけんの家はすぐそこで、向こうからは白石さんが来ていた。タイミング良すぎやろ、凉ちゃん!

「あ、礼華。久しぶりやな」
「おん、……ひ、久しぶり。」

いくらかぎこちない挨拶になっているのを凉ちゃんがくすりと笑った。白石さんは気づいてなかったみたいやから、少し安心。

「はじめまして。白石さんですよね」
「おん。白石蔵ノ介いいます。よろしゅう」
「更級凉です。こちらこそよろしくです!」

白石さんは「凉、やな。覚えたで」と凉ちゃんに向かって笑顔を見せる。ちょっとだけモヤっとする。これがなんなのか。それくらいはわかる。嫉妬、だ。

「立ち話もアレやし、入ろか!」
「せやな」

うちの表情を見て、困ったように笑う凉ちゃん。ごめんな、と何回も心のうちで繰り返し謝る。凉ちゃんは人の表情に敏感やからうちが嫉妬してもうたことなんかお見通しなんやろな。

「お邪魔します」
「どうぞ」

けんけんはリビングに居た。両親は仕事で医院に居るから、ということでリビングを使うことにしたらしい。
何度も言うようでしつこいかも知れないけれど、けんけんの家のリビングのテレビはデカい。ゲームとか試合中継は迫力があるからうちはけんけんの家のテレビが、好きだ。

「外に遊びに行くのもええけど、白石もおるし今日はゲームしよか!」

今回は大乱闘ス〇ッシュブラザーズをやるらしく、タイトル画面からキャラ選びステージ選びをするするとけんけんが操作する。
このゲームをよく知らない人の為に説明すると、要するに敵をぶっ飛ばしてステージから落とすゲーム。多く落とされたら負けやし、多く落としたら勝ち。チーム戦もプレイ出来たりするが、今日はチームを組まずにやるらしい。

「うを!凉、機敏やな…」

ちなみに凉ちゃんは見かけによらずこういうのが得意でゲームに強い。男の子のけんけんと互角以上に戦う為、けんけんとうちがチームを組んで凉ちゃんと戦うこともあるくらい。
白石さんも凉ちゃんのプレイに驚いて、真剣にコントローラを構えた。

「あっ、礼華、ずるいやんけ!」
「ちょ…これどないすんねん」
「…………」
「凉、真剣すぎやわ!」
「……確実に……一体……撃破!!」



天秤には乗せられない
(友達と恋は、はかるものじゃない)






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