一片の | ナノ


「礼華ちゃん、白石くん、お夕飯食べる?」
「はい。いただきます」
「ええんですか?」

すぐに返事する礼華とは対称的に白石は質問で返す。礼華はいつも遊びに来ていて慣れているものの、白石は戸惑ったらしい。
それを感じたらしい謙也が白石に言う。

「遠慮せんと食べてき。お袋、お節介大好きやから」

「じゃあ、いただきます」と白石が言うと「決まりやな」と謙也が立ち上がって部屋を出た。それに白石が、最後に礼華が続いた。

「(礼儀正しいん、やな)」

白石の背中を見ながら少しドキドキするこの感情を知らない礼華ではない。だが、処理の仕方を知らないものだから戸惑う他なかった。




「「「いただきます」」」

子供三人で食卓を囲む。礼華の隣に謙也が座り、謙也と向かいあうようにして白石が座った。

料理は一般家庭のそれで、謙也は言わずもがな礼華には親しみのある味だった。

「お母さん、おいしいです」
「ありがとさん。ぎょーさんあるから食べてってな」
「ありがとうございます」

謙也の母と白石が話すのを見て、また礼華は心拍数を上げる。
大人、やなぁ。謙也とはえらい違いやから…慣れんだけとちゃうかな…。
実際にはそうでないとわかっていながらもどこか気恥ずかしくて礼華には認め難いものがあったらしい。お陰であまり箸も進んでいない。

「どないしたん?具合悪いん?」
「珍しく口に合わへんかったんかな」

謙也が心配してくれても、こういう時に限って目ざといんやから、と心の中だけで悪態をつく。

「いや、そういう訳やないです。お昼が遅かったもんで…。全部食べるんで心配しなくて大丈夫です」

苦し紛れの嘘だな、と礼華自身でもわかっていてあまり味のしない夕飯を口に突っ込んだ。まさか斜め前の白石が気になるだなんて死んでも言えない。
ちら、と白石を見れば礼儀正しく行儀よく夕飯を食べている。白石がそれに気づいてニコッと笑むものの、自分は可愛らしい反応も出来ずに笑み返すのみ。

「(私なんか、眼中にあらへん…よなぁ)」

考えれば考えるほどマイナス思考になる自分を心の中で一喝して、なにも考えずに咀嚼を繰り返すことにした。




「ごちそうさまでした」

食べ終わるのは礼華が最後で、食器をいつも通りキッチンまで下げる。ありがとう、と言う謙也の母に礼華はいえいえと返してから時間を確認した。もう時計は午後8時前をさしていた。

「そろそろ帰らなな。あんま遅なるとうちのオカンめっちゃ心配するし」
「あ、俺も帰るわ」

礼華がそう荷物をまとめて持ち上げると、白石も同じように帰る準備をする。
少しドキッとした心を抑えながらも礼華は先頭をきって玄関へ向かった。

「2人とも気ぃつけて。あ、礼華。白石が道わからんかったら駅まで送ってやってな」
「了解。じゃーね」
「また明日」
「気ぃ付けてな!」

謙也にナイスといえばいいのかなんちゅう爆弾投下してくれたん!と怒るべきなのか。二人きりで帰るとか…!

「謙也はああ言っとったけど、俺道覚えとるから平気やで?」
「あ、そうなん?なら、ここで…」
「あー、のな?嫌やなかったら家まで送らせてほしいねん。夜道で女の子一人は危ないやろ?」

……ヘタレでアホのけんけんとは大違いやっ…!

礼華は心の叫びを押さえつつ、しどろもどろするしかなかった。こんなに女の子扱いされることも(謙也のせいで)そんなになかった礼華にとってこの白石の態度は衝撃的すぎた。素直に喜びたいけれど、みっともない所は見られたく、ない。

「い、嫌やない!ん、やけど。白石くんの帰りおそなってまうやろ…?」
「俺の心配してくれたん…?ありがとう」

「でも大丈夫やから。行こう?」と優しく言う白石に、礼華は照れて言葉が出ず、黙ってしてもらうがままになっていた。




Dance with love.
(こんないい人だとか聞いてへん)






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