一片の | ナノ




白石先輩が2年生にもかかわらず部長に選ばれていろいろあり、もう二週間が経った。

「迎えに来たよ、馬鹿兄貴」
「碧〜!会いたかったああああ!」

律也も相変わらず私にだけデレデレする。体重をかけて後ろからのしかかってくるのはいつものことだ。

「白石くん!」

片付けをしているのを見ながら残ったドリンクを飲み干していると、急に白石先輩が呼ばれた。知らない女子だ。きっと先輩と同じ学年のひとだろう。

「ちょっと話があるんだけどいいかな…?」

その子はモジモジしながら白石先輩にそう告げた。その瞬間、白石先輩の隣から殺気が溢れ出す。…この先輩は知らないのか…?

「ここじゃダメなん」
「私…"白石くんと"お話があるんやけど…」

殺気の元である礼華が睨むと先輩は笑顔のまま睨み返した。二人とも目が笑って居ない。そんな状況に律也は怯えて私の後ろに隠れている。

「礼華、ちょっと待っとってくれるか?」
「なっ…蔵!?」

礼華の腕をするりとほどいて礼華から白石先輩が離れた。皆があっけらかんとする白石先輩を見、そして礼華がどうするか見ていた。いや、見ているしかなかった。礼華は予想外にも喚くことも泣くこともせず、何も言わずに、走って帰ってしまった。白石先輩は何もなかったような顔をして「話…向こうでしよか」と校舎の裏に女子を手引きした。
正直意味がわからなかった。白石先輩は、あの女の先輩の話の内容が告白ってわからなかったの?ファンだったらその場でって言うし、なにか大事な用だったら電話かメールするだろうし、あれじゃあまるで礼華への当て付けのような。それに対して白石先輩はただ鈍いだけ?

「告白でしょ?振られるのわかっててなんで告るかな」
「礼華ちゃんを認めたくないんじゃないかしらん?」
「あ、小春先輩」
「あーあーせやなー。モテる男はツライなー」
「ユウジ先輩も案外モテてるから安心して」
「案外てなんや」

着替え終わってテニスバッグを担いだラブルスの二人がニヤニヤしながら白石先輩の背中を見送る。礼華を認めたくないのか。そーか。一年のそれも入学して来たばっかのやつが彼女です!とか言ったら認めたくないものなのか。覚えておこう。
相変わらず私の背中に隠れている律也に「そろそろあたしらも帰るよ」と言えばビクビクしながら吹っ飛びそうな程勢い良く首を縦に振った。なんかこいつおもろいな。





「あー!むっかつく!!!」

翌日、遅刻して来て早々礼華が財前に向かって言い放ったのがそれだった。可愛い顔しながらものすごい早いジャブを財前に繰り出す。それをやっている礼華もすごいが、携帯を弄りながら避ける財前もすごい。

「礼華、やめなさい。みんな怖がってる」

みんなア然としてみていたり、怯えたようにみていたり、財前に感動していたりそれぞれの顔でこちらをみている。もう知らんー!とせっかく来たばかりなのに礼華はカバンを持って飛び出して行ってしまった。昨日のあれをまだ引きずってるんだろうか。

「久我のやつ、どないしてん」
「あんた昨日見てなかったっけ」
「なにを」
「白石先輩が告白されたん」

それを聞いた財前はハッと鼻で笑ってどうでもいいと言うように再び携帯に向かった。男子らしいっちゃらしいが、ちょっと礼華がかわいそうな気もした。
それとこういうめんどくさい事は必ず回り回って私を巻き込む予感がした。いや、確信はないけどそんな気がする。

案の定、昼休みになってそれは来た。
律也がお弁当を持ってくるはずなのに一向に来ない。どうしたのだろうと律也の教室へ向かおうとすれば、白石先輩の手を引いてやって来た律也と鉢合わせた。自分の弟を褒めるのもなんだか変だが二人は結構イケメンだし、律也がちょっとめんどくさそうに泣いてる白石先輩の手を引いてるから不覚にも撫で回したくなった。だって二人とも可愛かったし。

「ごめん、碧。教室に久我いる?」
「居ないけど…どうしたの、それ」

白石先輩は泣きまくって目が腫れていた。そういえば、礼華は遅刻して来たし朝財前にジャブをした後に出て行ってしまってから見ていない。つまり…白石先輩とも会ってない…?

「礼華、ガン無視やねん…うぅ…」

このままでは昼休みがおわってしまうからと席について三人でお弁当を広げるが、白石先輩は泣いててお弁当も喉に通らない状態だ。

「メールも電話も繋がらんのや……もうどうしたらええんや……」
「礼華、一回学校に来たんすよ。めっちゃイライラしながらまたどっかいったみたいっすけど。……正直、今の先輩は泣いてるだけで礼華の為に行動する気あります?」
「ちょ、碧…」
「普通の男なら地の果てまで追っかけますわ。あと横に彼女いんのに明らかに告白しに来ましたってやつにホイホイついてったりしないっすね」
「(姉ちゃんこええ)」
「お膳立てくらいはしときます。あとは自分でなんとかしてみたらどうです」

律也はなぜかビクビクしていて、白石先輩はぐずぐずしながらも泣き止んで「助かる」と言ってくれた。白石先輩は普段はイケメンなんだが泣き腫らした顔はブッサイクだった。

「顔洗って冷やしてこい」

律也もそう思ったのか白石先輩にそう言い放った。フラフラと立ち上がり、白石先輩は廊下へ出て行った。だいじょうぶかあの人。

「久我も意地張らなきゃいいのにな」
「本人にそう言ってみたら?」
「俺が女子苦手なの知ってて言ってるだろ」
「当然」

携帯を取り出して、礼華に電話をかけてみる。
渡辺先生が部活には顔出さないと減点するって言ってたって言えばいいかな。しかしあの先生そんな事いいそうにないけど。


彼女の嫉妬事件
(白石先輩はヘタレなの?)


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