一片の | ナノ


部活に入部してから何も変わりはなく、私は他の一年と同じようにただ素振りを徹底したり球拾いをさせられたり、基礎体力の為に走らされたりと普通に過ごしていた。四天宝寺の雰囲気には、もう慣れた。
男子テニス部に律也を迎えに行くと、それぞれ面倒臭そうにマネージャーの仕事をやる礼華と、部活をしてるのかしてないのかわからないくらい適当にこなしている雰囲気だけを出している律也に目が行く。
そんな感じで、4月はあっという間だった。まだ終わってはいないけれど時間の流れは以前より早く感じられた。



「今日は蔵が部活の集まりなんやて。やから一緒に食べてもええ?」

ある日。礼華が昼休みに私と律也のところへ来てそう言った。勿論私は快諾して、自分のと礼華の席を確保する為に周りの椅子を持ってきた。律也も何か言いたげだったが素直に自分の席を確保して座った。

「白石先輩の部活って、文化部の方の?」
「せや。新聞部なんやで」
「(あぁ、あの変な連載の奴か)」
「へえ…白石先輩って文系なの?」
「どうなんやろなぁ…でも苦手科目ない言うてたけど、理系なんとちゃうかな?」
「あー先輩オールマイティに頭良いんでしょ」
「(まぁ俺には負けるがな)」
「せや。完璧な蔵の学力舐めたらアカンでぇ」

少し惚気話が始まる予感がしたので、無理やり切って別の話題に変えた。

「礼華はなにが好きなの?」
「くr「教科で」……えーと、日本史?」
「(中1って地理じゃないのか?)」
「碧は?」
「理系全般かなー。ナマモノはダメだけど。」
「(生物って言え)」
「あと…英語は死に物狂いで勉強せざるを得なかったというか…で好きではないけど得意かな」

本当に死に物狂いだった。言葉が通じないとはなんと不便なことか。前世の父がグローバルすぎて友人のほとんどが外国人だったのだ。外国人のホームパーティーに何故か家族全員で参加して話しかけられても全然わからず勉強するしかなかった。なんかな。懐かしいけれどそれより今の方がまだ楽しい。

「すご!今度勉強教えてや!」
「いいよー。でもまだ、というかもう、というか…4月も終わるけど勉強ついていけないとかないでしょ」
「まだ無いけど…でも予習がてらな!な!」
「じゃあ今度ね、あと授業は寝ないこと」
「はーい」

礼華は大変サボり癖や遅刻や授業中の睡眠が多い。らしい。居眠りはまだ見てるけど遅刻やサボり癖はあんま見たことがない。いや見る機会があっても困るけど。だから少しこれからの学力が心配だった。

「でもめんどくさがりの礼華が勉強するとか珍しいね」
「やって碧に教えてもろたら楽になるとおもって!」

ちょっと教えたくなくなった。

「ていうか白石先輩に聞けばいいんじゃないそれ」
「やって蔵忙しそうやし…。あんま迷惑かけるのもどうかと思って」
「あたしはいいんか」
「まぁ、まぁまぁまぁ。」

もくもくと食べていた律也が「ごちそうさま」と言ったので時計を見ると、昼休みはあと十分になっていた。今日は少しのんびりしすぎたかもしれない。

「あかん次実験や!」
「あーそんな事言ってたね。早くしないと」
「俺戻るけん」
「うん。また放課後」

急いでご飯を食べようととりあえずおかずだけ口に突っ込む。礼華とは丁度食べ終わるのが一緒で、急いでランチバックに弁当を仕舞って見渡すとクラスメートはもう移動の準備を始めていた。いかん。やばい。遅刻は勘弁。

「早くしろー!」

日直が鍵を握ってドアの前に立っていた。礼華も私も急いで用意して教室を出る。どうやら私たちが最後になってしまったらしい。

「山口くんごめんなー」

急いではしる。振り向き様に礼華が鍵閉め当番もとい日直の山口くんに謝ると おー、と山口くんは答えて鍵を閉めた。
礼華のこういう気さくで友達が多いところが羨ましい。きっと礼華にそう言えばそうかな?と言われるにちがいない。彼女のまわりには無意識で人が集まる。人徳、というやつだろう。
それがあれば私の世界は色付いたのだろうか。

……やめよう。今はまだ幸せな方だ。

「そういえば、ねえ碧」
「ん?」
「さっき聞き間違いやなかったら吉田先輩「戻るけん」っていってはったよね?」
「あー、あたしら生まれたの博多なんだよね」
「そうなん!?え、何かしゃべってや!」
「えー?何かって言われたっちゃなんも浮かばんちゃけど」
「おおー!」
「こぎゃんとで面白かとね?」
「おもろいおもろい!」

そうこうしているうちに実験室についた。みんなはもう着席していて、あとは私達と山口くんだけだ。山口くんは私達より来るのが遅くなりそうなのはきっと礼華もわかっていたと思う。
私達が座るとチャイムが鳴った。



……山口くん、ごめん。



私達の日常
(山口は犠牲になったのだ……)


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