一片の | ナノ


うちの弟がけんけんに漫画を借りてて、それを返してきてって頼まれただけなんやけど。

「(けんけん、遅いなぁ。部活?)」

「それなら部屋で待ってたらええわ」と、けんけんのお母さんに言われたからけんけんの部屋で待っている。ぱらぱらと漫画を読んでみるけれど、ハマる程ではないなと判断して部屋の真ん中にある低い机の上に置いた。
それから、けんけんがスピーディーちゃんと言って愛でるイグアナをつついたり、なでたりしながら帰りを待つ。けれど、一向に帰ってきそうにない。あ、スピーディーちゃん眠そう。
辺りも暗くなってきたのでそろそろ帰ろうかと思った頃。

「ただいまー」
「お邪魔します」

ん?
……おじゃまします?

「謙也、礼華ちゃん来とるで」
「まじか。あ、せや、こいつが白石」
「白石蔵ノ介いいます」
「あぁ、白石くんやね。謙也がお世話になってます」
「いいえ、こちらこそ謙也くんにはお世話になってます」

忍足親子(+白石さん?)の会話が聞こえて、私はちょっとどうしよう、と慌てている。その間にも部屋に近づく音がしてとうとうドアが開いた。

「あ、こんにちは」

けんけんと一緒に現れたのは、前にけんけんが携帯で見せてくれた、テニスが上手い人だ。
その白石さんにこっちから挨拶をすると、誰だろう…と思われているのが凄くわかる雰囲気が出ていた。

「こんにちは。」
「あ、けんけん…うち渡しものがあっただけやし…これで帰るわ…」

というかイケメンすぎて心臓に悪いねん!……本当に中学生なん?同年代にしてはかっこええ…というかかっこ良すぎて怖いくらい。

「あ、気使わんで?俺は大丈夫やから」
「白石もこう言っとるし、礼華がええなら居ってええで。」

イケメンなのに優しい人だ。あ、いや、イケメンは性格悪いって言ってる訳じゃなく、「天は二物を与えず」って言うらしいし。

「あ、ならお言葉に甘えて…。」
「ほなら、自己紹介。俺、白石蔵ノ介いいます」
「あ、うち、久我礼華。よろしゅう」

自己紹介をしつつ低いテーブルを囲むように三人が座る。二人がしょっていたテニスバッグは大きくて、壁に立て掛けていた。

「礼華は歳いくつなん?」
「小6やで。ひとつ下…やろ?けんけんと同じて聞いたし」
「なんや俺の話しとったんか、謙也」
「普通にテニスの強い奴と仲良くなったっちゅーただけや」

話をしていると、けんけんのお母さんがお茶とお茶請けをお盆に乗せて上まで来てくれた。一番近かったうちがそれを配るとけんけんのお母さんが「ありがとう」と言ったので「こちらこそありがとうございます」と返す。

「ほーん。あ、謙也って普段どんな奴なん?」
「え?けんけん?」

けんけんのお母さんが戻って会話が再開すると、話題は謙也くんに移った。けんけんって…どんな奴…やろ…。

「アホやね。」
「そんな言わんでええやないか…」
「鈍感やし。ヘタレやし。そんなやから凉ちゃんが手に入らんのやろ!」
「凉ちゃん…?」
「けんけんが一目惚れした相手なんやけど、色白で可愛いんやで!あ、ほなら今度一緒に遊ぼか!」
「せやな、その凉って子も気になるしなぁー。け ん け ん 」

挟み撃ちで逃げ場がなくなったけんけんはしどろもどろしてて、やっぱヘタレだからなぁと思った。
こりゃ…先が長いわ。



ひそやかに溺死
(ちょっと気になる人ができました)







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