一片の | ナノ


この学校のどこに何があるかはまだわからない。だから女子テニス部の場所は律也也に聞こうと思って朝、通学中にその旨を伝えた。

「蔵ー!」

放課後は寄り道せず誰とも話さずまっすぐ俺の所に来いよと律也が言ったので仕方なく言いつけ通りに二年の教室に行った。少し律也と話しこんでいたら、廊下で礼華が白石先輩に走って飛びついていったのが碧には見えた。今からの時間は一年生にとって初めての部活見学だった。部活紹介の冊子をパラパラとめくると目の前にいた律也が「(そうやっていてもどうせ)テニス部やろ?」と言った。

「趣向を変えて陸上とかやってみよっかなーとか……あーあー。冗談だからそんな怖い顔せんで」

眉間にシワを寄せて少し泣きそうになっている律也に言う。冗談だとわかると律也は「よかったー!」と抱きついて来たので、つい碧は条件反射で蹴ってしまった。大丈夫、これがいつも通りだ。
そうしていると白石先輩が礼華と一緒に碧たちの所へ来て「律也、まだか?」と言った。部活に一緒に行こうという意味らしい。

「……俺は後から行く」

碧に抱きついたままではあるが碧の時と態度は一変して律也は短い言葉を放つ。そのときの律也の声が少し震えていた。どうしたんだろう。具合でも悪いのだろうか。
遅ならんようにな、と白石先輩が踵を返す。礼華と一緒にそのまま教室を出て右へ曲がったから二人は見えなくなった。

「何で震えてんの?」
「あの、礼華って子こっちめっちゃ睨んどった…!」
「律也、礼華に何かしたん?」
「何もしとらんて」

何でだろう。とりあえず礼華が部活に遅れるわけにもいかないから、礼華に女子テニス部の場所を教えてもらう為に碧達も教室を出ることにした。






吉田先輩と蔵は仲がいいんだろうか。違うクラスなのに、蔵を見かけると必ず吉田先輩と顔を合わせる。
昨日からそればっかり考えている。とうとう男にまで嫉妬し始めるとか。あかんわ。

「どないしてん?」
「あはは、いや…なんも。」
「皆ええ奴やから、心配せんでええよ」

マネージャーをしたい、というのはうちが入学する前から蔵に言っていた事だ。ここにきて黙ってしまったのが緊張しているように映ったのかもしれない。ちゃうねん。そうやないねんて。ああ、でも言われへん。

「新マネ連れてきたで!」

中にテニスコートがある。この木製の戸をくぐるのは二回目だった。テニスコートには黄と緑を基調にしたジャージを着ている人がいっぱいいる。うちがきたから練習を中断しこちらにやってきはじめて、気づけばよろしくなーとまわりを囲まれていた。はた、と気づく。隣にいた蔵がいない。

「ちょ、っと、待ってください!」

蔵の姿を探す。蔵はベンチの方に行って先生と話していた。あれは…何ていう先生やったっけ。

「オサムちゃん、ほんで例の…」
「ああ。ちゃーんと持ってるで」

蔵は先生から封筒を受け取って今しがた輪から出てきたうちに「前の先輩マネージャーさんのメモやで」といって渡した。
部員も散り散りに練習を再開しはじめたので、うちも隅の方によってそれを読んだ。蔵はなるべくうちの近くで準備運動をはじめた。

要約すれば、仕事の内容と何がどこにあるとかこういう時はどうするとかマニュアルのようなものだった。しかも細かいし、絵までついている。これがあるなら頭に叩き込まなくてもええし、よかったわ……。無くさんようにせんと。

よし!これから蔵の為にもマネージャーがんばりますか!!!!!




四天マネ誕生!
(まずスコアのつけ方を蔵に教わろうかな!)


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