一片の | ナノ


なんとか今は普段のクラスでの話とかテニスの話、家の話なんかもたまにして、宍戸絡みはいまだにあるけれど当初よりは断然少ない…そんなメールのやりとりをしている。我ながら相当な進歩だと思う、これは。

「宍戸先輩!南条先輩!」

前まではこうして私も含めて話すことはなかったけれど、長太郎くんとメールのやりとりをするうちにどうせなら先輩ともお話したいです!といわれてこうなっている。5月の下旬頃の話だった。

「聞いてください!相川先輩、やっぱり外部受験するみたいで、マネージャー辞めちゃうみたいなんです!」

二人が驚くなか私は他人事のように思っていた。どうやら一大事らしい。マネージャーは3年生の一人だけらしく、その人が外部受験のために辞めてしまうという事だろうか。テニス部には200人の部員がいるらしいからその世話は結構大変だっただろうなあ。過労から来る病気とか、あるのかな。やったことないから知らないけど。

「いきなり相川先輩辞めちゃったらどうするんですか?後任も居ないし…」
「そういうのは跡部に任せるべきだ…ろ…。……いや、なあ、南条。マネージャーやってみないか?」
「…は?」

まったくの他人事オーラを出していたから、いきなりの事に戸惑う。

「私、200人の世話は流石に無理かな」
「んな200人の世話とかしねえよ。基本はレギュラーとか準レギュのドリンクつくったりとかタオル洗ったり、データ管理とかそんな事ばっかだぜ?」
「俺も先輩がやってくれるなら心強いです!」

宍戸の真っ直ぐな視線と長太郎くんの期待の眼差しに、私は首肯するしか出来なかった。そのあとに重要な事を思い出したんだから後悔しまくりなんだけれど。今のテニス部の実質的頂点に君臨しているのは誰かって事。

「もし長太郎のは早とちりだったとしても、どうせ来年は南条がマネージャーやってくれるよな!」
「本当に聞いたんですよー!」

あはは、と青春の一ページのように清々しく笑う彼ら。どうしよう。今更辞退なんかできない。けど。
あの部活には景吾がいる。
あれ以来顔も合わせていないし、声をかけたりとかもしない 。
それで今「マネージャー志望ですー」なんてのこのこと現れて平然と出来るだろうか。

「なんだよ、マネージャーの仕事不安なのかー?大丈夫だって。雑務くらいなら平部員がやるし。俺らだって手伝うから。」
「慣れるまでは遠慮なく言ってください。」
「ありがとう二人とも」

私が心配しているのはそこじゃないのだけれど、こういう過去を簡単に口にしたく無い。そうして私がヤキモキしているのをマネ業の心配をしていると勘違いされてさらにヤキモキするのである。いや、これはそうしてのこのこと現れるべき時なんだろう。
後悔しない選択は一体どれなのか、誰か、教えてくれないかな。



勘弁してよ、なんて言えない
(彼についての私の背徳)


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