一片の | ナノ


きりーつ、礼。いつも通りに四時間目が終わり、私は友達とお弁当を食べようと席を立つと、なぜだか宍戸がそわそわしていた。

「どしたの、宍戸」
「ん?あー、ちょっと職員室に用があるんだけどよ。」
「ほう?」
「長太郎が来るかもしれないんだ。昨日本を返すって言われたんだが…いつくるかわかんねーし」
「なら、私が預かっておくよ。構わないから」
「悪いな。そうしてくれると助かる」
「オーライ!」

宍戸くん…基、宍戸とはよく話している。いつからか"くん"もつけなくなって、授業中話しているとたまに一緒に怒られたりするような仲になった。あんまりよろしくないかもしれないけど、そんなこんなで4月はじめからは大分調子が良いと思う。女の子から嫌われたりなんて事もなく、自分で言うのもなんだけれど意外と順調だ。

「燈子ー!食べないの?」
「ちょっと頼まれごとで待ってなきゃいけないから後で食べるわー。ごめんね!」

了解ー、と言われいざ待つとなって、一体この暇をどう潰そうか悩んだ。そんな突っ立っているわけにもいかず、かと言って勉強して長太郎くんに気付かなかったら申し訳ない。本を読みながらほかの事を気にかけるのも得意ではないので、結局携帯を弄りながら待つことにした。
廊下を気にしてみたり、自ら廊下にでてみたり。
5分、7分、10分……と経過して、12分くらいになった頃に背の高い覚えのある銀髪の子がクラスのドアから宍戸の席を覗いていた。

「君が長太郎くん?」
「え?あっ、はい!」
「宍戸なら職員室に用があるとかで、今外してるんだ。けど、長太郎くんが本を帰しに来るって言ってたから、私が変わりに預かっておくように頼まれておいたんだけどさ」

長々と説明した後の長太郎くんは何とも言えぬ笑顔を輝かせた。まるでそう、犬。しかもほんわかしてるのに…かっこいい。結構ストライク…いや、ドストライクかもしれない。

「ありがとうございます!ずっと待ってて下さったんですか?」
「いや、それ程待ってないよ」
「………あ!もしかしてあなたが南条先輩ですか!?」

ん?なんでこの子が私を知っ……
あー…、宍戸かな。ちょっとこの子ストライクなのに。宍戸に悪評植えられてたらどうしよう。あいつったら、根はいい奴なのにたまにそれが正直すぎて裏目に出るから…。

「面白くて、けど真面目な奴だって言ってましたよ。南条先輩って、優しいんですね!」

ストライクかも…とかじゃない。確信に変わった。この子、いい子だ…。胸のあたりがじんわりとしてぎゅっ…と締め付けられるようにもどかしさを感じる。それを動力源に私は不意に口から言葉を漏らした。

「あ、じゃあメアド交換しない?私も宍戸から長太郎くんのこと聞いててさ。話してみたいなと思ってたのよ」
「良いですよ!」

こうして成り行きで…否、私の無意識なアタックで長太郎くんのメアドを入手した。
赤外線で私が長太郎くんのメアドを入手、「あとでメールするから」と言ってその後普通に昼食を摂り、宍戸に本を渡して5、6時間目を普通に過ごして帰宅。
要するにメールは送らなかった。私からメールして「よろしく」で終わるのはどうにも避けたかったから。時間のあるときにでも「よろしくね!ところで宍戸からどんな話聞いたの?」とか話題をふればいい。ふふ、と内心だけで笑っていたはずがお母さんに「どうしたの?ニヤついて」と言われてしまって、怪しい人になるのは勘弁なのにで「何でもないよ」とありきたりな言葉でごまかしてから部屋に戻った。

"今、丁度部活終わったところなんです。返事遅くなってごめんなさい"

ちょこっと絵文字がついていたりして可愛らしい割にスッキリした文体。それに目をつけるだとかなんだとか、とにかくなんにしろ私は既に長太郎くんに惚れ込んでいたと思う。

"こっちこそ部活あるのにごめんね"
"いえ、大丈夫ですよ。宍戸先輩のことでしたっけ。変な話は聞いていないので安心してください"
"変な話……って本当にしてないよね!?でもまあ、宍戸って正直だけどそういう話は進んでするタイプじゃないよね。"
"そうなんですよ、宍戸先輩のそういうところに憧れるんです!分け隔てなく優しいところとか、すぐに周りに気を使って気づいてくれるところとか…"
……云々。

そうして今でもずっと宍戸を褒めている長太郎くん。
まだ一年が始まったばっかりなのに信頼を寄せられている宍戸が、羨ましかった。羨ましいながらも、流石だと一目置いている。宍戸の魅力はその辺りだと私も長太郎くんと同じく思っている。

……しかしながら、宍戸の話ばかりしてくる長太郎くんにどうやって他の話をしようか。

ここ5、6月の間はそればかりを考えて過ごした。



君の事をもっと知りたいから
(私の事も聞いて欲しいよ)




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