一片の | ナノ


以前までは彩子と仲良くしていたが、彩子は景吾に構うようになって一週間たった今ではほとんど話さなくなった。
朝の登校も一人、帰りも一人。お昼を食べるのも一人になってしまうと思い、最近は食堂に行くようになって舌が肥えたような気さえした。まわりまわってこんなところに影響がくるのにも嫌気がさした。

兎にも角にも彩子とは、特別仲が悪くなったわけではないにしろ関わりをあまり持たなくなったのは事実だ。
それを察したらしい彩子つながりで出来た友人たちが、どうしたの?と心配するように聞いてきた。

「ほら、彩子って景吾と付き合いだしたから」
「景吾……?」
「あぁ、生徒会長…ね…って…なんで景吾って呼んでるの!?」
「あ…えと、幼なじみっていうか父親同士が親友で」
「いいなぁ、跡部さまと幼なじみ!ステータス高いじゃん!」
「そんな燈子ちゃんは、友達が幼なじみと付き合うのを見てどう思いますか!?」
「……もう、なんともね。」

言ってしまってから後悔した。女子の食いつきがそこだけ違った。"もう"とか言うんじゃなかったかも。

「それ、片想いだったの!?」
「片想い…っちゃあ、片想い…かな」
「いいなあ!幼なじみだったら成功確率高いはずでしょ!」
「やっぱりかっこいいもんねー。どこが好きになったの?」
「私じゃないよ、景吾が」

頬杖をついてそっぽを向く。何か訳がわからなくなっている友人らはぼんやりと色々考えはじめた。

「え…?……燈子は跡部様を振ったの?」
「うーん、まあそういう事になるかな」
「……ええと、つまり……彩子は跡部様にとって燈子の身代わりみたいな?」
「心の隙突いたってやつ?うわ、ムナシー」

きゃあきゃあとはしゃぐ彼女らを見て(良いよなぁ部外者は、)なんて思ってしまった。ふと外を見遣れば噴水のある通りを腕を組みながら歩く二人が見えた。景吾の表情はわからなかったけれど、彩子は終始幸せそうな顔をしていた。
もう、止そう。忘れてしまえばいい。
醜い感情を潜めておくのは嫌いだ。



さよなら、お元気で。なんて
(すべて投げ出して逃げられたなら)


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