一片の | ナノ


今日は凉ちゃんも含めて三人で遊ぶ約束をしていた日。場所は近くの公園。で、集合時間は2時。
土曜日だから、けんけんも学校が終わるのが早い。中学になっても公園で遊ぶのかな、と思った時もあったけれど普通に遊んでくれる。
本当は遊んだ後、テニスの練習をしているのをうちは知っている。でも何も言わない。言わないというよりかは言えない。無理して一緒に遊ばなくてもいいよ、とか……そんなことは言えない。我が儘かも知れないけど、一緒に遊べる時間が無くなったらうちらは接点が薄くなってしまう。

「凉ちゃん!行こー!」
「はい!」

凉ちゃんは一つ下だからまだいい。だけど、けんけんはひとつ上で今年から中学生。家族ぐるみの付き合いとは言っても、けんけんの家はお医者さんだしうちの両親もそれなりに忙しいから、ゆっくり家族ぐるみで遊んだり大人たちが飲んだりする暇もあんまりない。

きっと、それには、鈍感なけんけんでも気付いているんだと密かに思う。

「せや、今日はブランコしよか!」
「はい!あ、私、立ち漕ぎできるようになったんですよ!」
「礼華ー!凉ー!」
「お、けんけん!早かったなぁ」
「お前らが早いんや…まだ30分前やで!」

けんけんとうちが話しているのに、凉ちゃんはずっと黙ってるなぁと隣のブランコを見れば、立ち漕ぎでだいぶ高い所までいっていた。

「凉ちゃん、凄い!よっしゃ、うちも!」
「俺も!まけへんで!」

みっつあるブランコに、三人が立ち漕ぎで競争する。そうしてだんだん漕ぐのが疲れて。ぽつりぽつり学校であった事とかを話す。

「今日な、みよちゃんがあんま目立たんクラスの男子と付き合ってんのが発覚してな」
「みよちゃんて、礼華の近所の子やったっけ。けっこー可愛い子やろ?」
「そうそう。朝から帰りまで質問責めにあってて、かわいそうやったわー」

キィ、キィ、と上から金具がこすれる音がする。大きく弧を描いて空を切りながら立ち漕ぎするとひゅうひゅう鳴って、その中でまた会話が続く。

「あ、凉ちゃんにはまだ話してなかったわ。あんな、この前ワールドカップの三位決定戦、けんけん家に泊まりに行ったって言うたやんかー」
「ええ。聞きました。楽しかったですか?」

凉ちゃんも、うちに負けないくらいに高く漕ぎながら話す。本当、楽しそうに。

「けんけんがな、部活で強い人と友達になったんやて。で、うち言ってやったんやけど。その人より強なったら…」
「わーっ!礼華!その話はやめんかい!」
「ちぇ、つまらんわー」
「気になりますけど、謙也先輩がだめっていうんならだめですね。……あ、そういえば私、のぼり棒登れるようになったんですよ!」

そうしてのぼり棒に移動して。鉄棒とか、砂場で遊んで。いつまでこうやって遊んでられるのか、少し寂しくなったりもして。

私たちはまた、ここで「またね」って言う。



帰り道は夕日を背に
(次に遊ぶ約束はしないまま)




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