一片の | ナノ


ダメだ。
私は景吾を兄弟だと思ってて、彩子は景吾がすきで、景吾が私をすきなんて。
彩子にも景吾にも幸せになって欲しい。
私が邪魔しちゃ、だめなんだ。

「ごめん、なさい」

私は今まで、景吾に何回謝っただろう?なんで謝罪してきた?景吾はそんなに怒っていた?
何を、許してほしい?

「そ、か」

ぎゅう、と抱き寄せられて景吾の胸に顔を埋める形になる。どくどく、音が聞こえる。景吾の心臓か私の心臓かはわからない。若しくは二人の心臓のどちらも鼓動が早く、顔に熱が上るのを感じた。

「初恋って叶わないもんなんだな」

泣きたいのは景吾の筈なのに私が泣きそうになっていた。手をぎゅう、と握れば景吾のシャツに皺が寄る。

「燈子。最後に、俺の我が儘。聞いてくれるか?」

罪を償うつもりで首を縦に振る。ゆっくりと私の顔に手を沿えて、彼は、唇にキスをした。









「お母さん?……うん。出来てる。…………駅前で待ってる。………わかってる、もう御礼はしてきたし。…それに、迷惑ばっか掛けちゃったから…………うん、………うん。…じゃあ…また後でね」

携帯を閉じて、荷物を持って、私は別れを告げた。

「Thank you.」

答えるひとはここにはいない。




お母さんはすぐに家を見つけたらしく、すぐに引っ越してしまうよう手続きを概ね済ませたという。
本家からも景吾の家からも大して離れてなどいない、新築を次々と建てているような…今はまだ更地が多い場所だという。本家や景吾の家の気まずさよりは家族と住んだ方がいいに決まってる。
景吾には、出ていく事を言わなかった。ご両親には伝えていたからいずれ聞くことになるだろうけれど学校で会うのが一番怖かった。

「燈子」

呼ばれた声に振り返ると、お父さんとお母さんが穏やかな顔で車の中から呼んでいた。お母さんが車から降りて私の荷物を後部座席の後ろに積んでくれた。

「お帰りなさい。燈子」

「ただいま。」

解決はできた。今なら前より確実に幸せだと思える。
それでもまだわだかまりが残ってるのを、私は知っていた。





人の恋路を邪魔する奴は
(馬に蹴られて死ぬ前に。)


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