一片の | ナノ


次の日の学校に、凉ちゃんが普通に来ていた。昨日、あれからどうなったのかまだ謙也にも聞いていなかった。
倒れただけなのか、あぶなかったかもわからないから心配で昼休みに凉ちゃんのところへ行った。

「凉ちゃん!」
「礼華…先輩……」

凉ちゃんはうちを見るなり青ざめた。もしかして、うちがお母さんのことを思い出させてしまったのだろうか。…それほどひどかったのか。

「大丈夫?顔青いで?」
「いや、あの、ほんと、すみません。ほんと…」

いつもより低いトーンで凉ちゃんが謝る。ほんとに大丈夫かいな。

「昨日のことなら気にせんでええよ!」
「いえ、昨日のアレ、ですね、……牛乳…でした」
「……は?」

ぎゅう、にゅう?
ぎゅうにゅうって…あの牛乳…?毎朝欠かさず飲むあの牛乳?

「母が、牛乳を買ってこいとメールしようとしたらコンタクトしてなかったので文字が読めず電話をかけたんですって…。そしたら電話を間違って切っちゃったらしくて…ほんと…すみません…。急いで帰ったのに…母はぴんぴんしてました…」

色々と脱力して、言葉がでなかった。良かった、という安堵感とあのブランコで交わした会話の恥ずかしさが交錯して複雑な気分になる。

「良かった。心配やったから。……はぁ…」
「ご心配をおかけしてすみませんでした。……はぁ…」
「最後のため息はなんなん」
「先輩こそ」

凉ちゃんのはきっとお母さんに対する呆れなんやろな。そう考えればなんとなく合点がいった。
うちのは色々と思い出してしまい、恥ずかしさからくるものだった。あの時…手、触ってくれたんよな…。うわぁぁぁ、なんか恥ずい…!白石さんは励ましてくれただけなんに意識してしまう自分が恥ずい…!
というか取り越し苦労で泣いてしもたっちゅーのも恥ずい!なんちゅーことを…!

結局凉ちゃんはあまり深く聞きはせずに、チャイムが鳴るまでもだもだしとるうちの横にいてくれた。










「白石、昨日の話なんやけどな」

部活が始まる前に、ウェア(っちゅーかジャージやな)に着替える。そん時に謙也が、昨日の事の顛末を話してくれた。
謙也はそのほとんどを笑いながら話していた。

「にしても凉のお母さん、無事で良かったわ」
「せやなー。ま、おっちょこちょいなとこは凉と似とるから、なんや驚きとかはあんまなかったんやけどな」
「え、凉っておっちょこちょいなん?」
「完璧に見えるやろ?ああ見えて結構抜けてんで。礼華が見てへんかったら結構危険や」
「へぇ、そうなん?礼華もあれで面倒見ええからな。けど見とかんと危なっかしい気もするしなぁ」
「せやけどちょい暴力的なんが……って白石……まさか…」
「ん?」
「いや…なんでもないわ…」

好きなんか、て聞かれると思った。
実際、そうだったんだろう。

…俺は礼華の事を好きなんやろか。でも礼華と会うとなんとなく礼華から目が離せない。いろんな表情するんやなって昨日泣きそうになっとるのを見て思った。その表情を謙也の方がいっぱい知ってるんやろな、とか考えた事もあるし。そう思うと謙也に一発当てたい気もするし。

あれ、これって嫉妬やんけ。

「白石、はよ着替えや」

もう着替え終わってラケットを握った謙也に言われて、まだズボンが制服のままだったのに気付く。ちゅーか謙也着替えんの早過ぎや。急いで靴下もはいて、ラケットを握り、部室から出た。
とりあえず今日の練習で一発くらいわざと謙也に当てとこか。




俺ってこんなに
(独占欲強かったんやなー、と。)








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