一片の | ナノ


派手なパフォーマンスはないものの白石さんは着実に点を取るし、左右に揺さぶっても謙也先輩は持ち前の脚力で追いついてしまう。二人のテニスは一言で言えば綺麗だった。

「凄いやろ?」

マネージャーさんは今年の一年がいかに凄いかを伝えたくて、いっぱい話をしてくれた。礼華先輩は御託には興味がないのか白石さんを見ていたいのかコートに目が釘付け。
いろんな話をしてくれるけれど、言われずともその凄さがわかる。

「今日は3年の先輩がおらんから、1年もゲームできるんやけど。ぶっちゃけ今年の一年も素質バリバリあるし球拾いとか素振りやなくてええと思うけどな」

つらつらと言葉を並べながら記録を書き込むマネージャーさん。その隣で礼華先輩が白石から目を離さずに言った。

「……凉ちゃん」
「はい」
「うち、今まであんま白石さんのテニスをまじまじと見たことなかったんやけど、なんか…わかった気がすんねん…」
「わかったって…何が…」
「うち、白石さんを支えたい。マネージャーになりたい」

礼華先輩のそれは揺らぐことのない声音を持っていた。"傍にいたい"だけじゃなくて礼華先輩の中で白石さんの隣にいることがどういうことなのか整理がついたようだった。

「頑張ってください。私も、追いかけます。……でもその前に…まず言うことありますよね?白石さんに」
「う……、それは…まぁ…時期が来たら…」
「応援してますからね」

マネージャーさんもわかったようで礼華先輩に「頑張ってね」と声をかけた。礼華先輩は宣言したこと自体に照れて、口を閉ざしてしまった。





「ありがとうございました。やっぱりお二人のテニスは凄いです」
「何、まだまだっちゅー話や。な」
「せやな。まだまだ完璧とはいかんから」

二人はそういって汗を拭う。かっこよかったですよ、といえば「おおきに」と白石さんが笑む。横からの礼華先輩の独占欲からくる視線が痛い。
謙也先輩からの返事がないのを不思議に思い、白石さんが「謙也?」と言えば「え、あ、おおきに」と反応した。
少し赤面していた謙也先輩を見て、似た者同士だなぁと三人を思う。

「せや、白石さん。今度テニス教えてや!」
「おん。いつでもええで」

礼華先輩がきらきらした目で白石さんに頼むと、白石さんはそれを快諾した。礼華先輩、輝いてるな…。

「じゃあ今度はテニスですね。この前母のせいでバスケ出来ませんでしたし…今度はちゃんと遊びましょう!」
「せやな。俺ら明後日休みやから、そん時でええか?」
「うちは平気やで」
「私も大丈夫です」
「決まりやね!」

もしかして、礼華先輩が「白石さんと二人きりで教えて欲しい」という約束をしようとしたのなら余計な口を挟んでしまったのでは。と後から思った。
礼華先輩は自分の気持ちに素直になってから、積極的に行動するようになったと思う。私から見てだから、実際意識的にやっているかどうかは定かではないけれど。

いい、兆候だと思います。



惹かれあう二人に祝福を
(その時になったら、ですね)


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