Reach out to the truth | ナノ
「ちょっと歯医者に行かなくちゃいけなくて」
「あ、そうなんだ。大丈夫?」
「うん、大丈夫。明日の朝練には出るから」
「じゃあね」

部活を休むと次の日の視線が痛いために、そんなに休んだことのない私は心苦しい嘘に笑顔をつけてすぐに赤也の家に急いだ。急ぐ理由なんかないんだけど、なんとなく早足になって急いでいた。
何を心配したりしてるんだろう。
今でも仁王先輩を思えば胸が張り裂けそうで自分の体のどこか目につく場所からえぐりたいと思うくらいの衝動に駆られるけど、確かにそうなんだけど。
なんか、なあ。
赤也の方が変な時に思い詰めるような奴だから心配なんだよね。それこそいつの間にか車に轢かれてたりしたら嫌だし。

「こんにちはー」
「あら、名前ちゃん。いらっしゃい」
「お邪魔します」

赤也は帰ってるみたいだった。玄関には綺麗に並べられた靴の中に、脱ぎ捨てられた形のまま残っている男物の靴があった。

「なんか様子が変なのよねー」
「……へぇ、そうなんですか」
「まぁ名前ちゃんと話してるうちになおるかしらね。」

赤也のお母さんはそうとだけ言って「赤也なら部屋に居ると思うわよ」と私を促した。御礼を言ってから赤也の部屋に向かった。部屋にいるはずなのに、階段を上っても音が聞こえない。赤也って家でゲームするときは大音量でやるし、大体雑誌を読むときでさえ音楽聴いたりしてるはずなのに。ひっそり静まり返ってて、逆に怖い。

「(寝てたらそれはそれとしてって感じだけど…)」
「あ、ぁ…。名前…」

そりゃさっき帰ってきたんだから起きてるよね。赤也はきまりが悪そうにベッドに腰かけていた。今の私の頭にはあまりにも赤也が変だから、何を言われるんだろうとかそんなことばかりが頭をまわっている。

「まぁ、座れよ」
「言われなくても座るけど。」
「前置きとしてさ、これ言った後に俺の事避けたり友達解消とか、ぜってーしねえって誓ってくんねえ?」
「え…? うん。」

何度も念を押すように赤也が言う。赤也が私から金を借りるときよりも気持ちの篭った口調で言うもんだから、座ったまま少し後ずさった。

「本当にか?」
「なんだか今日はやんなるくらいしつこいね。宣誓ー、わたくし名字は赤也に何を言われても今後友達でいることを誓いまーす」
「いや、それだといろいろ困るんだけどよ…まぁ…いいや」

腹を括ったのか、赤也はベッドから降りて私の座っていた所と丁度向かい合うように反対側に正座した。

「名前のことが、ずっと昔から好きなんだ」
「へぇ、そうなん……え?」




カミングアウト
(まさか、あの赤也が私を?)