Last Night,and twilight. | ナノ

私はもう体力を手術で使ってしまうからイチかバチかで手術をしてみないかと言われた。もうこれ以上放っておくと手術すらできなくなる。そういわれて。しばらく考えさせてほしいと言った。けれど足りないのは覚悟だけで、結論は私の中でもう固まっていた。
結果的に私は精一くんの気持ちに後押しされてこの体を懸けた。
要らなくなんかないって言ってくれた人がいる…そう思うと胸が高鳴った。精一くんは私に世界を教えてくれた人。昔からテレビさえも見ずに外界からの情報をシャットダウンしていた。本は、私の不自由さを思い知らされるから嫌いになった。勉強はしていたけれどほかにできることもなかったために、四六時中…あるいは年中無休でずっと屋上から人々を眺めることだけに勤しんでいた。その眺めていた世界を主観的に教えてくれた人。世界に色を付けてくれた唯一の人だった。

最初はうらやましいの一言だった。友達という存在があって、一緒に笑いあえる空間にいたことが。ひどくまぶしかった。痛いくらいで……避けていたかったけれど。彼は私に要らないなんて言っちゃだめだと、言ってくれた。
精一くんは少なくとも私を記憶してくれる…そう信じたから。
私が今後生きていても死んでいても手術前に渡す手紙を精一くんに宛てて記すことにした。そして、手術する直前に精一くんに渡してもらえるように看護士さんに渡してもらおうと考えた。
手紙を書いた日は私が生きてきた中で一番晴れやかで且つ穏やかな日だった。光がこれ以上なく綺麗で、世界が変わったように私の目に美しく見えた。
ペンを持つのは久々。今までにどれだけ精一くんにうつつを抜かしていたのかというほどに久しぶりに感じた。それでも紙を滑るペン先もどこか嬉しそうで、その時はつらいことも思い出して考えていたはずなのに、ずっと幸せだった。
封筒の中に手紙を入れて、棚にしまう。後で看護婦さんが来た時に手術のことと手紙のことを、言わなくては。

「……!!」

そう決意したのに。
口からは赤い苦い液体が出ていた。口を切ったとかじゃない。もっと…奥から。
ぽたぽたと落ちればシーツに赤い点が染み渡っていく。ナースコール、しなくちゃ。
ボタンには触ることができたのに、それを押すより前に私の体はベッドの上に落ちた。


「知香子…ちゃ…」

あの子の声だ。私にはもう、力が入らない。君に御礼さえ言えない。

「知香子ちゃん!!」

ごめんなさい。
精一くん、ちょっとだけ、眠らせて。



Last Night,and Twilight.
(私は、生きて、いたい)






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