Last Night,and twilight. | ナノ

手術を、した。知香子ちゃんに後押しされて手術する決意を、手術自体をした。
テニスだってあきらめていない。出来ないと言われても出来るようになってやる。真田や蓮二たちに励まされ、知香子ちゃんを励ましたのは俺だから。やらなきゃいけないんだ。知香子ちゃんが生きられなかった代わりに。
やっと目が覚めたような気分だった。

「苦労をかけてすまなかった」

復帰したときは真田の平手ひとつで済んだけど、痛くなんかなかった。こんなので痛いなんて言ってたらやらなきゃいけないことも出来やしない。
そう、俺がやらなきゃいけないのはこれからだった。
全国大会決勝。その戦いで、俺は。

「(知香子ちゃんに誓ったんだ。俺は二度と忘れないように、彼女の記憶をこの大会に刻む。)」

それも勝利という形によって。
噂のスーパールーキー青学一年の越前リョーマ。俺にはブランクがあるけれど手加減なんて真似はしない。

「ボウヤ、全力できていいんだよ?」

小声でぼそりと呟いてから放たれたサーブを確実に打ち返していく。ボウヤは様々な技を出してくるけれどそんなの無意味だ。
俺はこの立海を三連覇に導くために…知香子ちゃんのために…絶対勝たなくちゃならない!!


「楽しんでる?」


けれどその誓いは俺のテニスにかける想いごと、まっぷたつにへし折られた。神の子とさえ呼ばれる俺を圧倒的に凌駕する天性のテニスセンスに屈した。彼に、勝てなかった。
いい勝負ができたと思った。けど、そんなのはすぐにじわりじわりと押し寄せる敗北感が背徳感を負わせてくる。

負 け た ん だ 。

「うあああああ…!!」

声をあげて泣いた。仲間にだってこんなところを見せたのは初めてだった。
弱かった?違う、俺はテニスを楽しめなかった。勝たなくてはならないと必死に決めつけて義務であるかのように考えていたから。
それをあのボウヤに思い知らされた。敗北というに文字とともに。

そして何よりも。

「知香子ちゃんに、許して…もらえない…!」
「幸村、落ち着け!どうした?」
「知香子とは誰のことだ、精一?」

不意に口から洩れた言葉に仲間たちが反応する。しばらくして落ち着いてくると控室には俺のすすり泣く声だけが響いていた。

「知香子ちゃんは病院で会った、俺と同じ病気も持っていた女の子だよ。屋上であってから、俺は一目惚れだった。けど、…彼女はもう長くなかったんだ…。」
「そうだったのか……」
「知香子ちゃんがいてくれたから俺はこうしてテニスに復帰できたし、何より彼女が励ましてくれたから俺は生きているんだ。…だから…!この大会、勝たなきゃ…いけなかったのに…!」
「幸村…」
「…ごめん。知香子ちゃん…俺は…」

椅子がぎしっと軋んだのを最後に俺の声は声にならずに消化しきれないまま俺の中をぐるぐるしていた。

「俺は…何?」



Last Night,and Twilight.
(なつかしい、声がした)




- ナノ -