Last Night,and twilight. | ナノ

あれから俺と知香子ちゃんが会うことはなかった。俺も俺で、「もうテニスはできない」と聞いてしまってから真田たちの大会の報告すら聞きたくなくて、テニスから離れた。
俺は一人だった。
白い病室が果てしなく暗い未来しか見えなくて、全てが嫌になって。それから……それから。

しばらくして知香子ちゃんが死んだと聞いた。

泣きたくても、涙は出ない。声も嗚咽も。いっそのこと知香子ちゃんと同じあちら側へ逝きたい。そうも考えた。
けれど、知香子ちゃんが親にでも友達にでもなくただ一人俺に手紙をかいてくれていたのだと、看護師さんから封筒を貰った。
封筒の中には3枚の縦書きのシンプルな便箋。それには黒いインクで出来た小さな字が綺麗に並んでいた。



"こんにちは、精一くん。
突然だけど、私は手術をすることにした。最初に掛かった病気からまさかここまでくるとは思わなかった程、長かった。もちろん諦めて私は死ぬつもりでいたのだけど。何故か死に切れなかった。身体はもう…もつはずがないのに死に切れず生きてる。
不思議だったけれど、精一くんに会ってから解った気がする。あの日、君は私に「いらないなんて言っちゃだめだ」って言ってくれた。
私は誰かを待っていたんだと思う。私が居た記憶を持って生きてくれる人を。それが、精一くんで良かった。君には生きていて欲しい。私の記憶を忘れないで欲しいのもあるけれど。何より、君は優しいから。
伝えたいことは一杯あるんだけど、今の私じゃ伝えられない。臆病だから。
精一くん、ありがとう。これは私が手術に失敗した時の保険として書いているのだけれど、それでなくても精一くんなら大丈夫だ。私を生きたいと思わせてくれたんだもの。
私も精一くんも治ったら、私から君に伝えたいことがある。

それじゃあ、ね。

ありがとう、精一くん。"




生きている感触がした。
生前、生きながら死んでいたあの知香子ちゃんが書いた遺書から生きている香りがするなんて。

「知香子…ちゃっ……!」

わかったよ。あれ程諦めていたテニスだってやってやる。俺が知香子ちゃんを励ませられたのは仲間がいたからなんだ。
決勝の場所に立って、知香子ちゃんの生きていた証は守る。

彼女のいない世界は……ひどくつまらないけれど。
彼女から託された意思は守るべきだと思ったんだ。




Last Night,and Twilight.
(ありがとう、さようなら)




- ナノ -