Last Night,and twilight. | ナノ

「いままでに症例があまりない、からって、生きられる可能性も低いって」
「そうなんだ、」

短い生涯の少女にはあまりに酷だろう。俺も人のこと言えるわけじゃないけど。

「手術しなかったら誕生日までに生きられるか、どうか。お医者様はそう言ってた」
「誕生日?いつ?」
「3月。あと半年とすこし」
「…次は何歳になるんだい?」
「じゅう、ろく」

次の春で16。3月は早生まれだ。すると…学年がひとつ繰りあがっているから知香子ちゃんは俺よりちょうどひとつ上。

「俺も3月生まれなんだ。あと、俺は今度で15」
「歳下?」
「そう、歳下。」

やっぱり最初と変わらない虚ろな目で俺を上から下まで見る。驚いた表情はせずに、ただ事実を飲み込もうとするのがひどく機械的だった。

「歳上かと思った。精一くん」
「俺も知香子さんって呼んだ方がいいかな?」
「別にいい」

話をしてくれる時点で嫌われてはいないんだな、と思う。彼女は俺から視線を外してふい、とそっぽをむくけれど。
昨日ちょっと舌ったらずで男好きと有名な看護婦さんを終始無視していたのを廊下で見た。関わりたくない人間はとことん関わらない主義らしい。

「学校の友達とか、あんまり作りたくなくて」
「…それは、また、どうして?」
「他人の嫌な所を私が受け入れられないの。上っ面だけの付き合いが一番、楽」

私は子供なのよ、と付け加えてまた手摺りの外へ目線をやる。

「ならさ、俺、知香子ちゃんの誕生日にケーキを焼くよ」
「ケーキ?…唐突ね。焼けるの?」
「自分で焼かないかも知れないけど、二人で食べよう。手術したら3月には退院してるはずだろ?退院祝いにどうかな?」
「そうね、好きにすればいい」

少しだけ笑ってくれた知香子ちゃんは、可愛いというよりは綺麗だった。上っ面の付き合いでもこんなに綺麗な笑みを見せてくれるなら、それでも良いと思ってしまえるのが少し憎い。


Last Night,and twilight
(この生活も悪くない、なんてね)




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