最初に見たのは入院して間もなく、初めて屋上に行った日。屋上に干されたシーツが靡くのにあわせて見え隠れする長い髪を見た。その髪も風に靡かれていて、顔は見えないけれど女の子だとわかる。いつのまにか目を奪われていて、この子はなんで病院にいるんだろうって考えていた。
ずっと外を眺めている。どんよりした空も気にせずにただただ虚空を見つめている。俺はそれを見ている。
長い時間が過ぎたのにも気がつかなかった。西日が射しているから、そろそろ看護婦さんにも叱られると思ってドアの方へ足を向けようとした。
でも女の子はずっと立ったまま。
「長いことここにいるみたいだけど。そろそろ、夕飯の時間じゃないかな」
「…あ…はい、」
俺はずっとこの子に惹かれていたと思う。だから話しかけた。
でも、話しかけてわかったこと。
彼女の内側は、もう死んでいた。
Last Night,and twilight.
「いつもここにいるよね」
「幸村、さん」
「どう?調子は」
「別に、なんとも」
彼女の口調は淡々としている。それがどこか心地良くて、また話しかけようとする。名前はもう聞いた。知香子ちゃん、というそうだ。後から知ったけど、病室も近いらしい。
「知香子ちゃんはなんでいつも此処に?」
「外に出られないから。それに毎日見舞いに来る人もいないし」
「両親だって…、」と悔しそうに拳を握る知香子ちゃんが、俺が始めて見た知香子ちゃんの生きている表情だった。
笑ったら可愛いんだろうな、とか月並みの事を考える。
「なんの、病気?」
不意に口をついて出た言葉に、自分でも驚いた。好奇心じゃない。知香子ちゃんを知りたい自分がいる。
「わからない、わからないの」
「じゃあ俺と一緒だね」
「?」
「俺も、よくわからない病気なんだ」
俺、いま泣きそうな顔してる、なあ。
Last Night,and twilight.
(こんなお揃いなら欲しくない)