幻のような気持ちだった。
次に起きたときには、先生の感嘆の声が耳に入った。続いて看護師さんの声。
これは、夢?どうせ最後に会うのなら精一くんがよかったな、なんて。
「知香子ちゃん、勝手ながら手術させてもらった。」
「…先、生?」
「手術が、成功したんだ!」
「え…?」
ゆめ、じゃない。私の手を握る先生の手の暖かさは間違いなく現実。……それじゃあ、私は!
「ありがとうございます…!」
嬉しい。嬉しい。久しぶりに顔に笑みを浮かべた気がする。これで精一くんに言わなきゃいけないこと、伝えられるんだ…!
「しかし知香子ちゃんがこんな表情をしてくれるとはね。昔はあんなだったのに」
「先生こそ、そんなに老けるとは思わなかったです」
「それでも相変わらず毒舌は健在かー。ひどいなあ…」
「ふふふ…」
私が笑うのを見て安心したのか、先生は父親みたいな温かなまなざしで私を見、それから頭を撫でてくれた。こうしてもらうと、安心できるんだな…。
「それじゃ、しばらくは安静かな」
「あ…先生。あの、一つ相談が。」
ん?と先生が私の顔を見る。先生の眼鏡に反射する自分の姿を見て、今が一番輝いてると自分でも思った。
「精一くんに、私は死んだと伝えて。それからこの手紙を」
安静にと言われた直後だったけれど引き出しを自分で開けに行った。この手紙は確実に彼のもとに渡してほしいから。
「どうかお願いします」
先生は困った顔をしたけれど。これだけは絶対に譲れない。
私は居住まいを正して土下座までしたのだった。
「……そこまで言うならいいんだけど…」
「けど?」
「幸村くんの精神状態が心配だね」
「大丈夫です。その手紙さえ渡せば」
先生は「そうかい?」と言って病室を後にした。看護師さんも「お大事に」と微笑んで後に続く。
安堵からか再び重いまどろみに誘われる。ああ、手術したから体力がないのかしら。
「また、ね」
君に会いに行くから。
Last Night,and Twilight
(彼への非情なエール)