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「放課後空いとったらでいいっちゃけど、駅前の雑貨屋、行かん?」

教室でコッペパンをむしっていたらそう言われた。雑貨屋に行きたい、なんていう可愛らしいことを言い出したのはきっと千歳先輩がジブリ好きだからだろう。コッペパンのいちごジャムとマーガリンの香りを飲み込んで、それを承諾した。
放課後になって、千歳先輩が教室に来る。なんで雑貨屋に行くのに私を誘うんだろう。千歳先輩と私の接点なんかほとんどない。ほとんど集まらない委員会の後輩なだけだ。委員会で少し話して、面白い人だなぁと思っていたら、何故か後日ちょくちょく廊下とかで会って話すようになった。だけ。
それなのに千歳先輩はなぜか可愛らしい雑貨屋に行きたい時、私を誘う。別に私は構わないんだけど、千歳先輩…今日はテニス部じゃなかった…かな。

そう思っていると案の定、テニス部の先輩が千歳先輩に対して部活に出るよう催促に来た。

「おい千歳、部活はどないすんねん」
「今日トトロ探しに行くとよ」
「は?」
「だけんが、名前と一緒にトトロ探しに行くっちゃん。駅前まで」
「トトロが駅前におるか!はぁ…まーた白石にお小言言われるで」
「……仕方なかろーも…」

何が仕方ないのかよくわからないが、部活はサボって欲しくない。私のせいになりそうだし。なんかお前が千歳をたぶらかせたんだろー!とか言われるの嫌だし。

「千歳先輩、今日はまぁ…仕方ない…?んでしょうけど、部活にはちゃんと出て下さいね」
「……そぎゃん名前が言うなら出てもよかよ」
「なんですかその上から目線」

少し口を尖らせて拗ねたように言うその表情が可愛くてつい許してしまうけど、ほんとはだめですから。

「はよ行かん?」
「そんなに急がなくてもトトロは逃げませんよ」
「いやいや逃げるやろ」

テニス部の先輩はどうやらツッコミ担当らしい。別に逃げても逃げなくても千歳先輩がかわいいからまぁなんでもいいよ。
実際私らの歳でトトロが見えるかどうかすらあやしいし。というか千歳先輩トトロ信じてるとか外見に似合わず、だよなぁ。

「なんね?」

私が先輩を見すぎていたのか、視線を感じたらしい先輩がこちらを振り向いた。

「いえ、なんでもないですよ?先輩、かわいいなと思いまして」
「名前のがかわいかよ」
「いえいえ、先輩の方がかわいいです」
「いやいや、名前のが」
「いえいえ先輩のが……ってこれいつまで続けるんですか」
「あ、今日はあの雑貨屋たい!」
「聞いてないし」

ゴーイングマイウェイってやつだろうか。普段はのんびりしているけれど可愛いものをみると食いつくように離れない。千歳先輩ってほのぼのしててかわいいよなぁ。

「何を買いに来たんですか?」
「トトロのシャーペンが欲しいっちゃん」
「トトロのですか。あ、あっちじゃないですか?」

店に入った途端に千歳先輩が魔女宅のファイルを見ていたから先輩の制服の袖あたりをつまんで引っ張ってそう言った。すると、先輩は私の手を見て少し固まる。

「あ、伸びちゃいますね。すみません」
「…そぎゃんた問題じゃなかつやけど…いや、なんでんなか…」
「?」
「なんでもなかよ」

ごにょごにょと言っていた千歳先輩の袖から手を離してトトロのコーナーに行く。トトロのスタンプとか、卓上カレンダーとか結構かわいらしい。作中で雨の中でバスを待っている時にトトロとさつきとメイが並んで傘をさしているイラストだ。これでもハイジとトトロはビデオがあったから繰り返し見ていたのでかなり覚えていると思う。ここでどんぐりをもらうんだっけ。あれ、結構あやふやだ。
この際だから、私も何かひとつ買ってみようか。
ぬいぐるみは大きいし、メモ帳も以外と使わないし。ハンカチがいいかな。
ふと視線が四角い箱に移る。横より縦に少しだけ長いその箱を手にとると、シールにはマグカップと書かれていた。

「かわいい」

箱から出して見てみると中トトロと小トトロのイラストが描かれたマグカップだった。ちょうど新しいマグカップが欲しいと思ってたから、これはちょうどいいかも。945円。うん、買おう。

「買うと?」
「はい。ちょうどマグカップ欲しかったので」
「かわいかね」

そう言うと千歳先輩は自分の持っていたシャーペンと私の持っていたマグを取ってレジに向かった。

「えっ…あ、先輩……お金…!」
「よかよ、出しちゃるけん」
「そんな、悪いです」
「付き合ってくれたお礼やけんが、気にせんで」

結局千歳先輩は私のぶんまで一緒に払ってくれた。私何もしてないのに払わせてしまったなんて、申し訳ない。

「んなら、今度からテニス部見に来てくれん?」
「え?まぁ…時間あるときでいいですけど…なんでですか?」
「……え…あー…まぁそんな感じたい」
「なんですかそれ」

むつかしかねー、と千歳先輩が言うもんだから何がですか?と返せば、それを苦笑で返される。
私の手の中のマグカップは、なんだか存在感があった。


愛しの945円
(というか、なんで私なんだろ)




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お題
『苺』『雨』『マグカップ』

千歳は性格が難しいのでかなりエセになりますね…うむむ…難しい。