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たまたま聞いた曲が頭から離れないことを柳に伝えると、彼はあの読めない表情で手に持ったノートを何枚か擦ってから「この曲か?」とメモを渡してくれた。
いつも思う。彼は生きるGoogle先生だ。

そんな彼と私が付き合っているとは皆、露知らず、である。そこまで関わりもなかったし惚れられる要素もなく告白された時は意味がわからなかったが、その美人顔を眺められればこの上ないと思い何も考えず承諾した。
特にベタベタしてみるわけでもなく恋人らしいことも一切したことがない。
柳曰く、それでいいと言う。
私がその気になった時にでもそういうことはすればいい、隣にいるだけでいいと柳眉を穏やかに下げながら言われた。
やっぱり意味がわから無いままなんとなくこの場所に、柳のそばにいる。

考査も明日からなので、うちで勉強しよう!と誘えば今日は何もないからと快く承諾してくれた。
うちの一家は総出で日光に行っている。紅葉が見頃なんだそうだ。私はと言うと考査とかぶるため一人で残されたわけだ。

帰り道、待ち合わせをするでもなくそれとなく一緒に帰る。途中、何か勉強しながら食べたいという私の言葉に柳はやはり顔色ひとつ変えず「わかった」と答える。少し、わからないというのは怖いと思った。

近所の大型スーパーにつくといつも買い物をする癖で、たいした個数を買うわけでもないのにカゴを持ってしまった。女の子らしいとは思えない。よくいえば家庭的な女の子だが少し無理があった。
こういうのを見て男子はどう思うのだろう。女心が男にわからないように、男心も女には理解し難い面がある。
特に柳はそれが多い。
自分のことを容易に話すような人じゃない。
生きるGoogle先生だから、質問すればすぐ余計なところまで解説してくれるんだけど。
自分のことを話すというところまでは私のことを認めてないんだろうか。

ビールの試飲を配る店員さんは私たちには目もくれずまるで存在そのものが見えないかのように私たちの後ろにいる奥さんに商品を勧める。まず文化人として見てもらうのには"大人として"が大前提。同等かそれ以上の価値がないと相手にもしてもらえない社会。それを垣間見た気がして私はすぐに柳の横で足の速度を早めてポテチの袋をカゴに放り込んだ。

「太るぞ」

じゃあなんでこのスーパーに来たんだよ。という言葉はぐっと喉の奥に押し込んだ。
柳と、店員さんが同じように見えて。はっと我に帰った。一緒くたにしてしまうのは失礼だ。
柳は私に与えてくれる。
せめて相手はしてくれる。ただ、柳は私に話したくないのかもしれないし、そもそも私の基準で物を図るのがおかしいんだ。きかないから言われないというのもあるだろうし。

「寒いね」
「風邪、ひくなよ」

レジを終えて外に出れば秋風が頬を掠めた。思わず身震いする程、冷え込んできたらしい。
柳も同じだったのか身を寄せて来た。歩きづらい。
せめて暖を取るならば手で我慢してくれと思いながら時計をつけたほうの手を柳の手に絡ませると、ふ、と。

あ、笑った。

やっぱりこういうのは嬉しいのだろうか。やっぱり男の子はよくわからない。それでも。私に歩をあわせてくれる柳が今回ばかりは愛しいと思った。

ちょっと今日はキスまで足を進めてみようか、なんて。




飽くなき秋
(君にもう少し歩み寄ってみようか)




お題:ビール ポテチ 時計