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初めて、自ら布団から出た。立つことはできないから這って出た。襖と呼ばれる戸と障子と呼ばれる戸があり、障子は薄い紙を木の枠に貼り付けたもので襖より軽いときいていたからすぐにどちらが障子かわかった。障子を開けると縁側という細い通り道があってそこには壁はなく庭へ通じていると聞いた。縁側は腰をかけられるらしく、朔奈さんはそこで外の空気を楽しむ事が多いと話していた。
わたしも、と廊下の縁を探ってそこから足を下げるようにして座った。

どれほど時間が経っただろう。

何時です、なんて誰も言わないし未だ夕暮れ時のにおいもしない。だれも、来ない。孤独。自分の部屋にいた時には感じられなかった寂しさが身を掠める。怖くなって、動けなくて、情けない。なんで外に出たんだろう。変わりたかった?一人で何か出来ると思いたかった?
それが、囲いの中から抜け出してまでしたかった事?
「(馬鹿みたい)」
女の子に振り回され、翔くんには意図していないのに突き放すような言動をしてしまって。それで自分の居場所を削ってしまっている様な。……翔くんには謝らなくちゃいけない。それで、彼女とわたしのどちらを選ぶのか、それとも他の子を選ぶのか。いつか聞きたいな。
翔くんの気持ちがわからないとこんなにも不安になるなんて、思ってもみなかった。

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いつもの様にだれも居ない放課後の教室で向かい合って座る名前と忍足。忍足はノートを読み終えてもノートから視線を外さずに名前に呼びかけた。

「なぁ、」
「ん?」
「咲夜は…どうなるん」

ノートから移動した忍足の不安そうな目が、名前に突き刺さる。視線のせいでじりじりと焼け焦げて穴が空いてしまいそうなんて考えて、はっと名前は現実に思考を戻した。

「話読む前に聞くの?完全にネタバレじゃん」
「やって…名字が咲夜をひどい目にあわせるん嫌やし」
「あんたの咲夜じゃないし」
「ほーらひどい目に合わせるつもりやろ!」
「別にいーじゃん…お父さんじゃあるまいし」
「報われへんなんて可哀想やろー!」
「じゃあ報われる様にすりゃいいんでしょ!うざい!」

ウザい、が効いたのか忍足は途端にシュンとした。何時の間にか口論のうちに二人は立ち上がっていて、忍足はやっぱりシュンとしたまま席についた。倣って名前も席に着く。

「だ、大体、報われるって何」
「えっ……。んー…」
「考えてないの?考えてないのに言ったの?」
「今日の名字ちゃんこわーい」
「……。」
「……はい、すんません」

ふざけて高い声を出しながら口元に手を当てている忍足を名前が睨むと、すぐに女子の真似をやめて「やって…名字が考えてくれると思っとったから…」と俯きながらいった。
確かにこの小説とも言えぬ小説を書いているのは私だけど、忍足が方針を変えた時点で私だけのものではなくなった。と、いうか忍足が考えたコースなんだから忍足も責任持つべきだと私は思う。

「じゃ、考えてきて。宿題。」
「宿題?」
「報われるようなストーリーの展開を考えて来て。箇条書きでもなんでもいい。私に伝わるようにしてくれれば私がその粗筋を文章にする。出来ればいろいろストーリーを考えて欲しい。私が考えるにしろ忍足と話し合うにしろその中から考えるから。おっけ?」
「おん!任せとき!」

あんまり嬉しそうにいうものだから、すこし気恥ずかしくなって名前が「…こんなことして楽しい?」と言うと、忍足はさっきとは比べ物にならないほど悲しそうになってしまった。その姿に、しまった、と思うよりもなんて馬鹿なことを、という気持ちが優って「お、忍足が楽しいならなんでもいいの、しゅ、宿題やってこないと、バッドエンド直行だから!そ、それじゃ!」と名前は吐き捨てる様に言って教室を飛び出した。

忍足の本気の悲しそうな顔が名前は苦手で仕方なかった。