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「翔は何か部活してるの?」
「いや、忙しいから…」

女の子が翔くんにひたすら話しかけている。私は口をはさむ気にもなれず、二人の会話を聞いていた。いつからそんなに仲良くなったの、と思い始めると急に私はいらないような気がした。三人確かにいるのに女の子にとって私はまるでいないかのような扱い。
翔くんは「咲夜もそう思うだろ?」と振ってくれるけど「そうね、」といい終える前に「それでね、」と女の子が話を続ける。私にも目があれば、翔君の表情をうかがい知ることができたのだろうか。こんな不憫なことにはならなかったのだろうか。

「二人とも、今日はいいよ」

暗に帰れということだ。女の子は「大丈夫だよ」なんていってるけど翔くんは久しぶりに聞いてもまだ覚えていたようで「ごめんな」と言って帰ろうとしたらしかった。女の子が戸惑っているのは目がなくても分かった。体調がすぐれなかったり疲れたりすると「今日はもういいから」と必ず私が言う。暗号、みたいなものだった。それで女の子を出し抜けた気がして、少しうれしくなった。なんて。私は性悪なのだ。きっと。

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「莉香って奴、気に食わん」
ノートを広げたまま顔をあげてぶっきらぼうに忍足が言った。ほんとこいつって表情がコロコロかわるよなあ。犬タイプ。心が素直なんだろうな。

「仕方ないじゃんそういう設定なんだから」

水戸黄門の悪役がうざいと言われたようなものだ。でも最近は水戸黄門の悪役も事情がある輩とかが増えたから一概に根っからの悪だ!と言えるわけでもなくなってきている気がする。…それはどうでもいいとして。
ノートを忍足の手から引き抜いた名前はそれをさっさと鞄にしまった。忍足には悪いがこのノートを誰にも見られたくないのだ。

「名字って…」
「あ、忍足ー!」
「ん?おー、堀田か。どないしたん?」
「今度クラスでこの前の体育祭の打ち上げしよかーって話しててん。忍足も来るやろ?」

忍足だけか。と思ってなんだかその場にいない扱いをされた気がした。あれ、なんかデジャヴ…?

「他もみんな来るでー。名字ちゃんも来る?」
「え?あ、うん。いくいくー!」

きっと咲夜は明るさがない。ないものねだり?いや、違う。太陽でさえ彼女に光を教えてあげられないけれど彼女は人が輝けることを知っている。それが彼女にできないだけで。
忍足の言うハッピーエンドとはどんな意味なのだろう。咲夜が幸せに生きること?目が治ってしまうこと?幸せに死んでゆくこと?
咲夜が望むような幸せな終わりとは一体どんなものだろう。