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「女の子が嫌い」

朔奈さんにそう言うと「莉香ちゃんのこと?」と言われた。こくりと頷けば朔奈さんは苦笑いをして「悪い子じゃないのよ、」と続けた。

「あの子、私の事なんてどうでもいいのに、ここへ通うの。きっと何か目当てのものがあるに違いないわ」

吐き出してしまえば本当にそう思えた。私の夢の中に入ってきたのは翔くんと朔奈さんだけ。お母様ですら心を許していないし、外へ出るように働きかけてくる。だってみんな、私が厄介なだけで、本当はどうだっていいんだもの。

「仕方ないわ、莉香ちゃんより咲夜ちゃんの方がすこし大人なのよ」
「? 歳は一緒だわ」
「精神的にってこと」

でも、私だってこんな拗ねているような真似をしている時点で子供だわ、とは言えず押し黙る。人はわがままなんだと思うと胸の中にそれがすっと収まった。そうか、私だってわがままだ。私のことなんて考えてくれない、なんて。普通人は自分本位で考えるものじゃない。

「夏目先生の本、読んで」

朔奈さんは私の空きの多い本棚から、取り出して頁をめくった。澄んだ声で文字が音に変わっていくのに意識をゆだねようとした。けれどそれはかなわない。私の頭の中にはあの女の子に対する暗い気持ちでいっぱいになっていた。

「(咲夜ちゃんにはこれが綺麗かどうかも分からないんだよ!?)」
「(ごめんね)」
「(翔くんっていうの?私、莉香っていうの!)」

あの子が来て、何かが変わっていく気がしている。それがいい方向なのか悪い方向なのかはわからない。私にとって安泰を崩すもの、すなわち私にとっては快くないものであるのはわかる。でも周りの人間が私に変化を望んでいるのであれば、客観的に言うとそれはいい兆候に見えるのかもしれない。
朔奈さんの声が耳をすり抜けて心地いい背景に変わっていくのを聞きながら初夏の香りを感じていた。

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「名前、お弁当箱変えた?」
「これ?昔使ってたやつだよ」
「へぇ…小さいね…足りる?」
「足りるっしょ。あんたが大食いなだけだって」
「運動部だもーん」
「はいはい」

友人は名前が小説を書いているなんて知らない。授業中だってお構いなしに書いているが普通に板書をとっているだけに見えるからだ。それなのに話したこともない忍足に知られてしまったのが名前には少しばかりショックだった。もしかして、図書室で話しかけてきたあの時から忍足はわかっていたのかもしれない。
意外だ。案外鋭い奴なのかも…。侮れない。
それにしてもなんたってこんな話の続きをせがむのか。

「名前?」
「ん?あ、えっと…何?」
「アンタ最近よくぼーっとしてるけど…寝てる?なんかあった?」
「いや、ちょっとした寝不足ー…。最近近所の鳥が朝早くからピーチクパーチクうっさいんだよね」
「うわ、つらいねー。眠り浅いのかもよ」
「確かに」

本当のところはそうじゃないなんて誰が言えよう。嘘八百。真っ赤な。それでもこんな恥ずかしい文章書いているなんて言えやしないから、5時間目以降も私は友人達には黙って、自己満足の小説を綴っていくのだ。