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※ゆゆ様リクエスト
(社会人/同居)


会社の仕事を終えて家に帰ると、百均にて315円で買った白いホワイトボードに切れ長の文字がかかれていた。

"夕飯は冷蔵庫にあります。
早めに帰るので心配しないで"

その一言は急いでいたのか最後の方なんかは糸を引いている。あまりに急ぎすぎて、最近ずっと履き続けているお気に入りのブーツは置き去りにされて、かわりに黒いエナメルのヒールが姿を消していた。台所に行けば、流しには人参や芋の皮と朝食の皿が放置してあった。
いつもここには名前がいる。
俺より早く仕事から帰ってきて、専業主婦みたいに家事を完璧にこなす。俺はそんな名前を手伝いたいと彼女に申し出るのに「何もしなくていいのに、」なんて柔らかな笑みでいつも拒否される。

家事全般は出来なくなんかない。
こんな日くらいは手伝わないとな、と自分の背中をおして台所に立つ。スポンジに洗剤を含ませて泡立たせ、食器に順に滑らせていく。蛇口から流れ落ちる水で洗剤を落として水切りの台に立てかけていく。
こういう時、名前は何を考えるんだろう。俺はちゃんといつも名前の事考えてるんだけど。無意識のうちに名前のことばっか考えてる。
なのに口で「いつも名前のことばっか考えてる」なんて言ったら、それは嘘のような軽いものになるようで……不安になる。俺ばっか頭の中で名前のこと追いかけ回してる、けど、頭の中の名前は虚像だから一人でぐるぐるしてるみたいでまた不安。
早く本物の、虚像じゃない名前が帰ってきたらいいのに。と考えていたら玄関から開錠の音がした。

「ただいまー。ご飯食べた?……あれ、珍しい」

あれ、珍しい。じゃないでしょ。あんたがいつもやらせてくれないんじゃん。

「まだ食べてない。さっき帰ったばっかだし」
「じゃあ今用意するよ」
「いや、いい」
「……食べないの?」

眉間に皺を寄せて、名前がちょっと怒ったように言う。そうじゃ、なくてさ。

「今日くらいは休みなって言ってんの」

ぽかん、とした名前はあまりにも間抜けだった。口が半開きだし。はっ、として意識を取り戻しすと今度は嬉しそうな顔でしどろもどろしていた。「え、あっ…うー…」なんて呻いている。居心地が悪そうにもぞもぞしてから、名前は「あ、ありがと」と言ってリビングに逃げた。

照れた顔を見られたくなかったんだろうけど俺も最後の一言で赤面しちゃったから、逃げてくれてよかった、とかさ。



俺が君のサテライト
(初々しすぎてやっぱ恥ずい)




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ゆゆ様リクエストありがとうございました!