コンビニエンス・ラブ | ナノ


テニスをしている人達は輝いて見えた。白石くんも財前くんも輝いていたけれど、それ以上に輝いて見えたのはやっぱり謙也くんだった。
脚が速くて、どんなボールにでも追いつく。その追いついたときの勝ち誇ったような笑みが印象的だった。

周りにいる女子生徒は服装が一人だけ違う私になんか目もくれず「やっぱり白石先輩って無駄がないよね〜」だとか「ラブルスも息ぴったりだし!」だとか「財前くんがんばれ〜」だとか声援を送っている。
白石くんに声援を送っている人は少しマネージャーさんに害虫を見るような目で睨まれていた気がするが、見なかった事にしよう。中学生とはいえ関わると厄介な感じだとおもう…し。

「なんか今日、忍足先輩の動き悪くない?ほら、なんとなくカタイっていうか」
「忍足先輩マークしてるからって見すぎでしょー」
「だってカッコイイじゃーん!」

女子生徒たちの会話で聞こえてきたものは、少なからず私の心臓を叩いた。「忍足謙也」という人名に過剰反応を示す脳が憎い。
謙也くんの動きが鈍いのはやっぱりあの件のせいなんだろうか。そう思い始めるとじわじわ顔があつくなる。ぱたぱたやっても夏特有の温い風が頬を擦るのみで一向に覚める気配はなかった。

「んん〜絶頂!」

白石くんの声がコートに響くと女子生徒たちがきゃあきゃあ黄色い声をあげた。テニス部のメンバーをいつものことだと言わんばかりに気にせずにいたみたいだったが、謙也くんを含めた数名の部員はこちらを見ている。

あれ、今。
謙也くんと、目があった…?

謙也くんがラケットを落とす音がどこか遠くで聞こえて。気がついたら私は逃げようとしていた。



「なまえさん!!!」

逃げたつもりが謙也くんに追いつかれて手首を握られる。土地勘的なものもあっただろうし、流石に運動してる人にはかなわないみたいだった。
ああ、でも謙也くんになんていえばいいんだろう。やばいドキドキしてる。握られてる手首が変なふうにあつくなる。うおお…心臓ばっくんばっくん言ってるし…。謙也くんに聞こえてないよね…?

「なんで、来てくれたんですか」

いや、え、なんで、だろ。不可解な動悸もなんでなのか、わかんないんだけど。なんで、来たんだっけ。確か…会えなくなるの嫌で、そうだ。

「だ、だって、謙也くんが、あんなこと、言ったあとだっ、たし、もしかしたら、コンビニ、来て、くれない、かも、って」
「…………?」

舌が回ってないのを不思議に思ったらしく、謙也くんはきょとんとした顔でこちらを見た。
ばっくんばっくん鳴りっぱなしの心臓がうるさい。なんで静かになんないの!


ん……?もしかしたら、私って。
…………恋、してるんだろうか。


急に器官が詰まったような感覚がして、穴があったらほんと埋もれたいくらいの衝動に駆られる。
私が、謙也くんを、すき。って。
やばい、私の顔、今、絶対赤い…!

「謙也くん、」
「え、あ、はい…?」


「私、君のこと、好きだ」



謙也くんのポケットからボールが数個ほど転げ落ちた。




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