レポートは無事提出できた。
でも問題が残ってる。謙也くんの件だ。もしかしなくてもあれは告白だった…よね。自惚れとかだったら恥ずかしいから嫌だけど。いや、絶対にそう…だよね。
YESかNOかはまだ決めかねている。前の事もあったわけだし。でも、謙也くんならいいかな…なんて思ったりしてるのも確か。
どちらにせよ、もう謙也くんと話せないかもしれない?…向こうから話し掛けてきてくれなくなっちゃう?もうコンビニにも来てくれないしファミレスでお話もできないかもしれない?
それは……嫌だな。
今日は講義が昼前のうちに終わる時間割で、お昼には既に自宅に帰っていた。机の上には謙也くんが飲んだウーロン茶も置いていった消しゴムも昨日のまま置いてある。無理矢理でも動かせる気はしなかった。ウーロン茶は軽く蒸発して色が濃くなっているように見えた。
机の上をぼうっと眺めるうちにある考えが脳裏に浮かんだ。向こうが会いに来てくれなくなるなら、こちらから会いに行けばいい。考えてみれば私から会いに行った事は無かったのだから丁度いいチャンスのように思えた。
私はすぐに身なりを整えて、コンビニでスポーツドリンクを買ってから四天宝寺中へ向かった。
私がバイトをしているコンビニが近くにあるといっても私が四天宝寺中に行くのは初めてだった。ちらっと見たことはあるから行き方は知っている。初めて見たときは、名前に寺とつく学校だからとはいえ本当に寺のような風貌をする必要はあるのだろうかと考えたものだった。でもまぁ、門くらいならこんなふうに立派だとしてもなんらおかしくはないだろう。
しかし久しぶりに敷地に入って、再び寺なのか大学なのか悩まずにはいられなくなった。少なくとも中学ではないな、これは。
目的地は時間帯が放課後ということもあってやはりテニスコートだろうと思う。しかし周りをキョロキョロ見回しながら歩いてみたものの、テニスコートはおろかテニス部さえ見つけられない上に、自分の居場所がわからなくなった。
ここは誰とは言わないけど、私はどこ!?の状態であるのは確か。さてどうしたものか。
「お困りやろか?」
「………。」
と、そのときだるんだるんのファッションの怪しげなおじさまにエンカウント。いきなり声かけられたのでなんて切り返せばいいか考えていると沈黙がやけに耳についた。…あれ、私の方が不審者みたいなことになってない?
「はい、迷ってしまって……。」
「何処に行きたいんや?校舎?正門?」
「テニスコートです」
「…へぇ、テニス部に用なん…」
その人にはそれきり何も聞かれなかった。ただ、ナンパっぽい言葉かけられたりはしたけれど冗談めかして言っていたので本当に冗談みたいだったけど。悪い人ではないみたい…でも、怪しさが拭えない。
あ、胡散臭いって言うんだっけ?
「せや、名前は?」
「なまえといいます。貴方は?」
「オサムちゃん呼んでえな。お、見えて来たで。その庭球部って書いてあるとこや」
「あ、ありがとうございました」
「ほな、また」
「はい」
オサムちゃんは下駄を鳴らしながら、校舎の方へ戻っていった。教師…なのかな。でもあんな服で教師なんて出来ないよね…。警備員さんでもなさそうだから…なんなんだろう。
あとで聞ける雰囲気になったら謙也くんに聞いてみようと心に決めながらテニス部の門をくぐろうとする。しかしテニスコートの周りにあるフェンスのあちらこちらに女子生徒が群がって観ているみたいだったから、中に入るのはやめて私もそれに混じることにした。