ユウユウ | ナノ



夢…だろうか。僕は真っ白な空間にいた、色のついているものは自分だけ。一面が真っ白だった、床も天井も壁も真っ白だった。いや、合っているけど合っていない。だって壁と床と天井の境がないどの方向にもどこまでも歩いて行けそうだ。

一歩歩いてみた。出した左足はほんの少し沈んだが歩きにくいほどではない。丁度座布団とか、マットレスとかそんな程度の柔らかさだった。

「ねぇ」

どんどん歩いて行った。気が遠くなるほど。声が聞こえた。でもきっと気のせいだ。だって回りは真っ白だから。そう考えて歩きを止めなかった。

「ねぇ」

まただ、辺りを見回したけど、やっぱり白以外の色彩は見当たらない。しかし不思議なことに自分の影があった。明確な光源はないのに。

じっとそれに目を凝らす、なにこれ。

髪の毛が短いじゃないか。

「僕、わかった?」

瞬間、にゅっとその影は僕の前に立体化した。びっくりだ。だって1年前の僕が僕の目の前に立ってるんだもの。ご丁寧に服もあの軍服のような堅苦しいやつ。

「やあ僕」
「やあ僕」
「何の用だい?」
「独りになりたくなかった」
「だいじょぶさ僕にはジン君やバン君やまだ君の知らないたくさんの人たちが力になってくれるよ」

「……ほんとうに?」

小首を傾げながらみるみる間に髪の毛を白くさせた僕は、僕に近づきながら口を開く。

「この前アルテミス出たんでしょ」
「うん、楽しかった」
「目黒と黒木に似た二人組を見てちょっと焦ってたよね」
「っ!」
「オタレッド。アルテミスの時もコスプレのなんたら大会の時も少しよそよそしかったね」
「……」

押し黙った僕に構わず目の前の僕は光のない目で僕を射抜き、抑揚のない声で追い詰める。

「ジン君も少し気を使ってるよね。どうがんばってもバン君みたいに接してもらえないね」
「………」
「ほんとは感じてるんでしょう?」

僕は赤目をヒステリックに歪ませて、僕を引きずり倒した。抵抗する気もない。

「僕がまたおかしくなるかもしれないって、みんななんとなくそう思ってる!」

馬乗りの体勢で肩を捕まれて揺すられる度に体が床に沈んだり浮いたりする。少し酔った。反応をしなくなった僕に不安になったのか、狂ったように叫んでいた僕は、今度はその赤目から涙を流した。情緒不安定にも程がある。独りにしないでというしゃっくり交じりの涙が下にいる僕に落ちてくる。

「ほんとうに?」

唐突に出た言葉は先ほど投げ掛けられたそれと全く一緒だった。さすが自分。僕は半ば無理やり上体を起こして、面食らう僕を膝に乗せる状態になった。

「ほんとうに信じてもらえてないのかな?」
「そうだよ」

僕の言葉に僕は涙声ながら負けじと言い返してくる。

「僕は、思いやられているって思ってるよ」
「嘘」
「うん嘘。ほんとは疑われてるのかなって不安になる日もないわけじゃない。でもね、そのうち僕にもわかるよ」

だってみんなの屈託のない笑顔を見たらそんなこと杞憂に思えるんだもの。

「…変」
「なんで?」
「いきなりにやついたから」
「じゃあ僕も笑ってみようよ」

向かい合う僕の長ったらしい前髪を引っつかんで、自分の髪を縛っていたゴムで束ねてちょんまげにした。隠れていたもう片方の目もようやく見える。

「これで二倍世界が広がるよ」

大好きなヒーローに夢中な男の子や、やたら体育会系で空手では一生敵わなそうな女の子。落ち着いてて、でもプライドが高くて、実はちょっとジン君が気になってるのにそれを必死で隠そうとしている女の子や、男の子に見間違えるくらいボーイッシュな、トマトジュースが手放せない新チャンピオン。君はまだ知らないだろう。疲れるくらい急速に世界は変わるよ。決して楽ばかりではないけど暖かくて幸せなんだ。

「またね、僕」

僕はもう目覚めの時間だ。



目覚めた僕の腕には、寝る前にほどいたゴムはなかった。





またあいましょう
(笑い話ができるくらい時が経った頃にでも)


2012/10/21


「二人にしようよ」様に提出いたします。
大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。またユウユウという色々と際どいCPを選んだにも関わらず、親切なご回答ありがとうございました。
参加が出来てとても楽しかったです!!



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