「ありがとうございます、三国さん。」 「速水、もっと前向きに。な?」 「倉間、剣城、お前たちの得点が要なんだ。」 あ、まただ。霧野はユニフォームをきゅっと掴んだ。拳の下にあるのは、心臓。 例えば神童が他のメンバーやあるいは監督と話しているときだったり、他校生に絡まれていたり。そんなとき表現のしがたい胸の締め付けにさいなまれる。現に今もだけれども。 チームの要である司令塔であり、同時にキャプテンマークを腕に通す彼に他の奴と話すななんて思う方が間違っているんだ。それは重々承知してる、たぶん。 しかしああも人当たりがいいと、どう見方を変えたって辛いものは辛いわけだ。霧野は毎日、この心のモヤと戦っていた。霧の必殺技を得意とする人間がモヤ程度に苦戦するなんて全く不甲斐ない。 そうでもしてこの想いを捨てていないのは、やっぱり理由があって。 「霧野。」 休憩になって、真っ先に駆け寄ってくる。ほら、こうして笑ってくれると、視界に自分が映っていると幼い頃にはなかった幸福感で胸がいっぱいになる。 「神童、最近無理してないか?」 彼はみんなを心配する。じゃあ彼の心配は誰がする? 霧野は、神童を案じるのは自分の特権だと思っていた。 ねぇ神童気づいてる?俺はこんなにお前が大事で大切で、一番に想っているんだよ。大好きなんだ。 言ってしまえたらどんなに楽だろう。 「そうかもな。でも、あんなにがんばる後輩がいたら、おちおち休んでなんかいられない。」 そう言ってちらっと神童が首を動かした先には、ひたすらボールを追いかける風のような後輩。 「休憩時間なのに。でも、そろそろ限界そうだな…じゃ、霧野。」 ちょ、待てよ神童。そんな霧野の静止の声も聞かずに、神童は行ってしまった。 どこにも行くなよ、小さなあの時みたいに。慌ててその言葉を飲み込む。空気の波とならなかったその想いは、もちろん神童には届かない。伸ばした腕は空を切った。 「松風、無茶はするなよ。」 後輩と笑う神童、目の前にある彼の笑顔は見るとすごく嬉しいのに、今のような遠くの神童の笑顔はとても…悲しい。 気づけばまたユニフォームを握っていた、力が抑えきれずにカタカタと震える手。必死に言い聞かせる。 大丈夫、大丈夫だ。俺はこんなに想っているんだから、神童だっていつか必ず… ぼくを支えるぼくの想い (必ず、想ってくれるだろ?) 2011/09/08 企画サイト様 横恋慕 へ提出しました。 神崎様素敵な企画に参加させていただきありがとうございました。 |