コードギアス | ナノ
さよならを告げなければならなくなってから何年もの時間が経ったのでしょう。あれから世界は激動の時代になり、私は生き残ってしまいました。ユフィ、今の私を見てあなたはどう思いますか。
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アリエスの離宮に似せて作らせたこの政庁の庭園は日当たりもよく、執務の合間を見つけてはここに来ることはもう習慣となっていました。ここに来るのは休憩という理由もあるけれど、まだ他にもあります。それはきっと心が、とかそのような世界のお話なのでしょう。
「ナマエ!あなたもここにいたのね」
「えぇ、もちろん。だってこんなにもあったかいんですもの。ユフィは?」
「執務をしていたときに外を見たら日差しが私を呼んでいるような気がしたから…」
「なあに、それ」
くすくす、と笑うユフィはとても綺麗でした。同じような環境で育って同じ皇女で同じ父親から生まれたはずなのにここまで違うものがあるのだな、とそのときの私はユフィに対して羨ましい、という感情ばかりがあるのだと思っていました。今思えばただの嫉妬なのだと理解できます。私が出した答えはユフィと私は違う人間だったということです。
「みんなでお茶でもしたいですね」
「えーと、お姉様にギルバート卿、ダールトン卿、あとロイドにクルーミーさん、あ、あと…」
「スザクも、でしょう?」
「も、もうっ。ナマエったら。わたくしをいじめないでっ」
枢木スザク。ユフィの専属騎士でナンバーズ、特派所属のナイトメアパイロット。それは、ナンバーズにしては恵まれた地位に立っているということです。スザクは死にたがりでした。いえ、死ぬ時期をいつも逃がしていると言った方が正解なのでしょう。花のような光溢れるユフィ、土の中で埋もれて光さえ見えていないスザク。正反対の二人は正反対だからこそ惹かれあっているのだと思っていました。それは許されないことだけれど、微笑ましいのだとさえ思いました。だけどそれ以上に私からユフィを奪われたような気がしてくやしくて、憎かったのです。
「でもスザクはあんな性格だから来ないでしょうね」
「そう、ね。スザクはすごい遠慮をしてしまうもの。別に私にならしなくたって、いいのに…」
「そういうわけにもいかないです。だってスザクはナンバーズなんですよ、ユフィ」
ものすごく私、意地悪なこと言ってしまったのでしょう。ユフィもわかっていたのです。皇族とナンバーズが結ばれることなんてない、ってことくらい。それが元首相の息子だったとしても、関係なく区別されるということも。けれども好きで、その気持ちを彼に、スザクにあのときに伝えたユフィはやはり、私とは違うものを持っていたはずなのに。
「私、皇族だけどナンバーズとか関係ない、って思うの!だって同じ人間なのよ?しかもイレブンなんて10年前では私達は日本人、と呼んでいたわ。父様がなにを考えているのかなんて私にはわからないけれど、私は日本にいてお飾りにされているとしても副総督としてここにいる以上は変えていきたいと思っているわ。だからこそ、私はスザクといることになにも恥ずかしさや負の感情かんて持っていないし、これからも持つわけない。だって私はスザク自身のことが好きなんですもの」
ユフィはスザクのことが好き―それはどう考えてもわかりますし、あのプライベート通信を見てしまった人なら嘘をついているわけない、ただ、スザクのことが好きなだけなんだと、そう思います。けれど、私はそれでも憎いのでした。私とは全てが違う、私よりも輝いているのに全てを放棄してまでスザクを愛そうとしているユフィが、それをさせようとしているスザクのことさえも。
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「今ならわかる気がします。それが嫉妬だってことくらい。1番仲のよい姉をあなたにとられるんですもの、それにユフィの1番も私だとあの頃の私はそう信じて疑わなかったのです。そして、ユフィの傍にいたかった。だからこうして今でも日本にいるのでしょうか」
何も言わない仮面の人。ユフィ、あなただったらどう声をかけますか。今から私が言おうとしていることを許せるでしょうか。
「ゼロ、あなたは何故ここにいるのです。ゼロとして日本人に謝罪をしているの?それとも、ユフィに会いに来てくれたのですか?」
『何故私が虐殺皇女に会わなければいけないのだ。
「理由はあなたならわかるはずです。なぜならあなたは私が嫌いで、憎くて…それでも、同士なのですから」
『同士、か。あなたと私が同士?それはおかしな話だな。私はゼロ、あなたが愛していた人を殺した男だ』
手をにぎる。手袋越しでもわかるごつごつした手。やはり、それは私が何度か触れたことのある手でした。
「もしあなたがブラックリベリオンなどで悪名を馳せたゼロだとしたらここには来ないでしょうね。私が思うに、ゼロはもっと非情で卑劣でした。おかしな話だ、と言うときにゼロなら嘲笑うはずです。それがゼロの戦略だと、私は思っていましたから。」
「もうよいのです、なんたってここにはあなたと同じ日本人と、あなたが愛しているユフィがいます。そうでしょう?ね、スザク」
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「ユフィ、スザクに会いましたよ。少ない時間でしたがあなたを思い出し、スザクも心を休めることができたでしょう。私にできるのはこれぐらいしかありませんし、なんというか、あなたへのせめてもの罪滅ぼしです。あの頃私、あなたたちがあまり会えないように細工をコゥ姉様としていましたから。…あら、もうこんな時間になってしまいました。今日はそろそろ帰りますね。…ユフィ、また来ます。」
『えぇ、待ってます。ナマエ!』
そのとき風が吹いて、私を通り過ぎたときにユフィの声が聞こえたような気がしました。まるで私の背中を押してくれているように。