コードギアス | ナノ

夏の暑い日。太陽はこれどもかというほど存在を主張していた。いつもなら冷房の効いた研究所にいるのだけれど、今日、今私は日本にあるオレンジ畑まで来ていた。


「…記録」


パシャ、という撮影音とともに後ろから聞こえた声は懐かしい、でも昨日もどこかで聞いたことがあるような、そんな不思議な気持ちにさせる声である。


「懐かしいですね。元気にしていましたか、アームストレイム卿」

「うん、元気。だけどもう卿じゃない、アーニャでいい」

「アーニャ、…慣れないですね、やっぱり」


私は2年前、このアーニャ・アームストレイム卿のナイトメア開発部に所属していた。開発部のメンバーはどこか変わった人が多く、それはやはりアームストレイム卿の影響を受けていたと断言していいほどにこの人は浮世離れしていたのは誰から見てもわかっていたことである。しかし別に苦手というわけではなく、むしろ愛するモルドレッドを操縦するこの方が私は好きだったんだ。私はそれを糧に研究を続けていたのだから。


「そういやモルドレッド、ペンドラゴンにあるブリタニア記念博物館に飾られるそうです。トリスタンが隣に並ぶらしくて…ほんと可変ナイトメアだか知らないけどあんな小型がモルドレッドに並ぶだなんて開発した私は許せないです」

「それ、きっとあっちも言ってる。モルドレッドは重機とか」

「パワーなら誰にも負けませんし、シュタルクハドロンだってす

「今は必要ない。モルドレッドも、トリスタンも」


時代は進み、世界は変わった。あの悪逆皇帝ルルーシュによって。この世界にはモルドレッドが必要なくなってしまったイコール私のような軍事科学者も必要なくなってしまった。


「世界は変わりました。それは国や文化、人さえも全てです。そして貴方、アーニャも、変わりましたね」

「記憶があるから」

「記憶?携帯のデータのことですか。それとも、貴方の思い出?」

「さあ。貴方の思う通りでいい。でも、言うとしたら、明日が来るのがすごく、楽しみ」


あの時代、もしかしたら私は昨日に戻るのがとても怖かった。私たちが開発したナイトメアで人は死んでいくのが恐怖だったのだ。だから私は明日を欲した。でも今はどうだ。あのときの栄光を少しでも取り戻したくてまた研究の道に走っている。軍事じゃなくても研究というものこそが私にとっての昨日なのに。


「私は未だに昨日に縋り付いています。アーニャは、そんな私を軽蔑しますか」

「…何故?それが貴方の明日なんでしょ。だから、それはそれで、いい。貴方は貴方で、いい」


この言葉を私はこの2年間、待っていたのだと思う。あの激動の時代を共に駆け抜けたこの人のこの言葉を。


「おいで。美味しいオレンジジュースがあるの」


私は気づいていた。アーニャの手にはもう携帯がなかったことを。記録するために必要だった、大切なもののはずなのに今はそれが必要ないのだとアーニャは気づいたのだ。なぜならそれは、明日を生きるために。

アーニャは今を生きている。あのとき高く結い上げていた髪は変わらないが少し優しくなった赤い目をそこに宿しながら、失っていたものを取り戻すかのようにしっかりと、後ろを見ずに。

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