幸せのあとに | ナノ
考えてみれば私達は昔からこういう関係だったのである。幼稚園のときに出会い、偶然にも同じクラスで母親同士が意気投合をしてからの仲だ。それからというもの子供の頃の純真さを徐々になくしていく臨也を隣で見ていたのは紛れもなくこの私。そこからどうしてだかこの弱そうな男の子を守らなければと思ったのが1番はじめの特別な感情だ。それが恋愛だと気づいたのは今、だと今のあたしは思うのだけれどもしかしたら随分前からなのかもしれない。気づいていないフリをあたしはしていたのかもしれない。携帯で前に臨也としたメールを見る。こんな気持ちでいるのにとても女の子らしいとは言えない素っ気ない返事をしている自分のメールに思わず鼻で笑った。そうせずにはいられない。あたしの心がいじけているような気がした。


「名前、鼻で笑っただろ。携帯いじってたくせに」

「見直してたメールが面白かったの」

「見せてよ。というか、誰からの?」

「教えなーい。あ、臨也なんか曲かけて」


そう言うと臨也は小さな溜息をついてから私の部屋にあるウォークマンのスピーカーをつけた。二人の部屋にどこに何があるかさえわかってしまうだなんてこれは幼なじみというよりか兄弟に近いように感じてしまう。だんだん恋愛というものから離れていってしまうような気がした。

今どうしようもなく臨也の気持ちが知りたい。怖くて仕方ないけれどそうじゃなきゃ前に進めないような気がして。

部屋にかかっている曲はゆったりとしたバラードの恋愛ソング。明るくてアップテンポが好きなあたしからしたら珍しい。そのときに臨也が私の名前を呼んだ。まさかのことで携帯を持っていた右手がぶるり、と震えたのはきっと。


「名前は俺のこと好き?」

あぁ、また右手がぶるり、と震えた。

「名前は俺のこと好きなの?」


そう聞かれて驚かない方が無理というものだった。だって私は何も言ってないし何も行動に移していないつもりだから。なのに何故、臨也はこう言ってくるのだろうか。


「何でその話、って顔してるね。…名前はわかりやすいんだよ、感情とか特に。なのに君は気づかないフリとか頑張っちゃってさ。だから俺もそれにとことん付き合ってやろうと思ってたんだ」

「へぇ、そう」

「それ酷くない?俺がせっかく告白してるっていうのに」


現実味のない話。え、臨也が、私、を?脳を整理しようにも今の私の頭の中はぐちゃぐちゃに掻き回されて使いものにならない。しかし、頭は使いものにならないがどうやら口は勝手に動くようで。


「だって、私と臨也は完全と言っていいほどの、幼なじみ、だし」

「恋愛になんか発展なんてしないだろうなと考えてて、」

「だから私諦めて、てて」


この言葉が何の意味も効力もたないことだなんて知っていた。ただの言い訳、臨也にはなんてことのない話なのに。


「それでも、名前が好きだよ」

「俺は人間を愛しているけど、#名前#はそれ以上なんだ、愛してる、守りたいんだ。愛してるからこそ守りたい、こんな気持ちになるのは名前だけだ。人間なんて俺を楽しませてくれるだけだと思っていたのに」


今まで見たこともない赤くて自信がなさそうな顔。これは本当なんだと気づかされた。この人は私のことを好きでいてくれていてそれでいて私は、


「あたし、臨也が好きだよ」

「そんなのとっくに気づいてたよ。だって、俺が名前のことを愛しているんだからね」


もしかしたら世界で一番ナルシストかもしれなくて常識だとか非常識だとかの区別もついていないかもしれないこの幼馴染をあたしは好きだと知った。それでも臨也のことを私も愛しているのだと、臨也以外は考えられないのだと。深い深い底に隠れていていたそれは、気づいたのは、この愛の真実だったのだった。

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