short | ナノ
私が生まれ、育った町では雪が降ることはありませんでした。さらに雨が降ることも少なかったのです。水が少なく、農民たちが困っていると父上がこぼしていたこともありました。だからこんな、真っ白で銀色がきらり、きらりと輝く世界は初めて見たのです。
「瀬戸の姫さん、寒いんじゃないの」
「大丈夫です。それよりもこの雪をずっと、見ていたいわ」
「一応は人質なんだからさ、風邪引いて倒れたりとかしないでよ」
そうです。この真っ白で銀色の世界を初めて見る理由は先程言っていた通り、私がここの生まれではないからでした。今までに住んでいたのは瀬戸内の方です。瀬戸内、でば雨は少なく雪なんて以っての外。母上、東は寒くて凍え死んでしまうとおっしゃっていましたがこの寒さのかわりにこの景色を見られると思ったらひどいものでもありませんよ。むしろ私はただ寒いだけのそちらよりこちらのほうが好きかもしれません。
「ほら、これでもかけといたら」
そう言われて羽織りを渡してくださったのは父上たちを降伏させた真田幸村殿の忍、猿飛殿でした。彼は時々こちらへ来られます。そして雪を見ている私と一言二言と話し、去っていくのです。最近では会話というものも成立していきまして私としてはどこかで嬉しいと思うときがあります。あぁ、今日もこうして私に優しく接してくれる。どうしてだかものすごく、私はこの時間が好きでした。
「ありがとう、優しいのですね」
「…何言ってんの。あんたはやっぱ変な姫さんだよ」
ため息をはきながらもずれていたのか羽織りを直してくれました。それが、あなたの優しさなのですよ。