short | ナノ
「はーい、パパだよー」

「ぎゃあああぁあ!やああぁ!!」


生まれて一週間ほどしか経っていない娘とその母となった自分の妻がようやく病院から出て来て家に帰って来た。やっぱ女の子だし成長してちょっと大きくなったらパパー、パパー、とかとたとた、って拙く寄ってきてパパ大好きとか結婚するのはパパなの!だとか言われちゃうのかな。でもそのときはパパにはママがいるから駄目なんだ、なーんてそんな会話が繰り広げられるんだろうなぁ、と思いながら今か今かと楽しみに待っていたはずの今までの俺、ちょっとその考えを改めようか。もしかしたら、いやもしかしなくても俺はものすごく娘に嫌われているかもしれない。何それ、ショックどころじゃなくて立ち直れないくらいに体が殴られたようになってしまうじゃないか。とにかくシズちゃんの破壊力よりも大きいのは確かなんだけどね。


「あら、臨也嫌われてるわね」

「結うるさいよ。いずれはパパ大好きって言われるはずなんだから」

「そんな子嫌よ。あなたも、こんなお父さん嫌よね。ほらほら、お母さんのところにおいで」

「前から思ってたけどなんでお父さんお母さん呼びなわけ?もうそれ時代遅れだと思うんだよね。これからは絶対パパママ呼びのがいいと思うんだけど。」

「何言ってんの。本当は私、結ちゃんがいいんだけど我慢してんの。あんただってちょっとくらいは我慢しなさいよ。ほら、はやく」


意味わかんない。なんで子供が親のことを下の名前でしかもちゃん付けなんだよ。俺のがまだましじゃんか、ねぇ?でも結の俺を見る目は変わらない。そして無理矢理(といっても両脇の間をしっかりと支え持って)娘を俺から取り上げるとその途端に泣くことをやめたこいつを横抱きにして髪を撫でていた。そのときはもう結はそちらを見ていて。完全なる母の顔に、俺といるときとは違う顔になっていたのがなんだかとてもくやしくて、愛しく感じたんだ。パパママやお父さんお母さんなんて呼び方のことはそんなの、どうでもよくなったんだ。

「ありがとう」

結が娘をお腹に宿してからというもの何度目かわからないその言葉に結の娘の髪を撫でる手は止まった。俺はこの胸に込み上げてきたくすぐったいこの気持ちを伝えたくなって、2人まとめて抱きしめた。まずはこの子を産んでくれてありがとう。次はこの子を守っていてくれてありがとう。俺を選んでくれてありがとう。俺と出会ってくれてありがとう。他にももっとたくさんある。結はきちんと意味を理解してくれただろうか。

「…そろそろ名前、決めてあげよう。いつまでも赤ちゃんだからってあーちゃん、とかそんなのできないんだし、それに14日後までには市役所に提出しなければいけないんだろ?コーヒー、はカフェインだからホットミルクでも飲むかい?」

「…えぇ、ありがとう。はやくに決めちゃいましょう」

俺たちはこれから3人で暮らしていく。なんだかそれがものすごく、今更なんだけど実感してきた。だから今からこの子に名前をつけて、幸せいっぱいの中で育ててあげよう。幸せをいっぱい与えてあげよう。こんな俺でもそう、思えたんだ。

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