short | ナノ
例えばの話、私が別の人を好きな場合。そしたらあたしは阿部と別れるだろうし、あたしの愛は一直線にそりゃあもうストレートに気持ちはその人に向くんだろう。だってそれが付き合っていた阿部へのへんな言い方だけど情け、まあ愛だと思うし、もちろんそれが最期の愛になるんだと思う。それで本気で阿部のことを嫌いだったらメールで一言“さよなら”と伝えるのもまあそれはそれで愛。自然消滅は一番最悪の形だと思っているから、いくらかマシなんだと思う。そしてこれはあたしにとっての例えばの話。本当にこれが起こっている人はその最悪な状態を作り出そうとしている。そして今、そいつが目の前にいる。
「久しぶり、阿部」
「おう」
「新しい彼女出来たんだって?今私のクラスの話題」
「お前のクラスに?何でだよ」
「2人でいるところを見たんだって。すごいじゃん、他校なんでしょ」
野球部のマネージャーの子かな?冗談で言ってみたけどその心を読まれたって罰が悪そうな顔をするの、やめてよ。冗談も言えなくなっちゃうでしょ。今まで気持ちが離れていくのに気づいていたのに、気づかないフリをしていた私がバカに見えるでしょ。でも、きっとそんな私より今の私の方がさらにバカに見える。だってバカだもんね、仕方ないや。
「結、ご」
「ごめんなんて言わせない。というか言われてたまるか。あんたを好きになった自分がわかんなくなってきた。あー、ほんと最悪。新しい彼女とお幸せに、さようなら」
なんだかとてもすっきりした。ちゃんと分かれられたから?それとも思いっきり罵ってやった優越感?答えはまだわからないけれどいつかは理解出来る日が来るんだろう。でももう、思い出すこともないのかもしれない。
家に帰ってもらったキーホルダー。一緒に撮った写真を燃えるゴミとしてまとめて捨てた。携帯の中にある阿部関連の画像を削除するために、決定ボタンを押した。
“削除しました”
それが画面の映ったとき、どうしてだか涙が流れたような気がした。