short | ナノ
今年の冬がやってきた。奥州の冬は寒い。戦は出来ないしもちろん外に出るのも億劫になってしまうくらいだ。他国が今この瞬間天下をとってもおかしくないっていうときに俺は何も行動に移せない、何も出来ない。馬鹿みたいな話だ。でもこの目の前の真っ白な雪しかない光景を見ていると嫌にでもそれが本当なのだとわかってしまう。でも、冬は嫌いになれない。なぜなら、こいつが現れる季節だからだ。



「やっほー、政宗。今年も元気にやってんの?あら、相変わらずむかつくお顔!」

「皆まで言うな、今年も出てきやがった…」

「照れ隠しなのはわかってるって。はぁ、こーんな小さいときはもっと素直だったのに」



俺がまだ梵天丸だった頃からこちは冬になるとあらわれる。しかもそれからの十数年間もの間こいつの姿かたちは一切変わらなかった。梵天丸だった頃みたいに見上げる背丈も、俺の手を包み込んでしまうような手もそこにはなく。守ってやらなければならないような全てが小さい女。頭一つ分俺より小さい、手だって今では俺が包み込んでしまう小ささ。今では全てが反対だった。



「おら、こっち来いよ。どうせ今からんだろ蜜柑でも食べるんだろ?」

「今日はいーや。あ、てか子ども扱いしたなっ」

「Ah?俺の目の前には子供しかいないだろ?」

「う、お母さん泣くわよ!」



こいつは俺の母親代わりとも言える存在だった。母上にいらないと言われてからのあの心が空になっていた俺の目の前に丁度、今のような外が雪一面になった日に泣いていた俺の頭を撫でた、それからだ。俺の目の前に毎年現れるようになったのは。

俺に暖かさを教えてくれた。実の母親に愛されなかった俺を無償で愛してくれた人。俺も自然にこいつを愛していた。人として、母親として、女として。だが女として俺に接してくれることはない。それはわかりきっていたことだ。だから、別にもういい。俺は既に身近な人の心を求めることを諦めることなど容易に出来る。



「なぁ、今年は何をするんだ」

「んー、今日でさよならだー。今年は今日だけ、寂しいね」

「何言ってんだよ、お前、言ってる意味わかってんのか?」

「わかんなきゃ言わないって。本気、今日で最期なの」



熟れたみかんを一つずつ口に放り込んでいないその姿以外は見ればいつもの冬だ。平和な冬、何も変わらない、はずだった。



「さようなら。楽しかったよ…政宗、ありがとう。 大好き」



こんなに寒い冬にしか現れないくせにひまわりのような笑顔をしているこいつの周りが淡く光りが出てくる。確かにここにいるのに、消えていきそうで。



「嘘だろ、なあ。消えんなよ、お前がいなきゃ、俺は、」



天下を取る理由も、民を守る理由も、俺が生きている理由さえなきなってしまいそうで。俺には何も残らない。信も義も愛も全て。お前は俺の全てなんだ。俺が頑張ろうと思える目標なんだ、symbolなんだよ。俺から全てを消そうとしてしまうのか、お前は。

光に手をのばす。もう、触れられないからだが今起こっている事実を物語っていた。消えていくのにどうしてそんなに綺麗に笑えるんだ?今消えてしまうという絶望の中にいるのではないか?そんなことが頭をよぎる。でもそれもその笑顔が全ての答えを出していた。何故ならそれは息子の成長を喜んでいる、母親の顔だったからだ。



光が、あいつの体が消えてしまった。そこにあるのは冬の寒さと少しの雪だけだった。

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