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さようならを告げてから季節はふたつ過ぎた。あれは夏の終わりだっただろうか。急に言われたその言葉を最初私は理解出来なくて聞き返した。なにがあったの、私、何かした?自然にその言葉は出てきた。だって私は誰よりも好きなはずだったし、隣にいて苦痛ではなかったから。


「君は僕のことが君にとって必要かと聞かれたら、そうだとは言えないだろ」


「だから僕たちは一緒にいなくてもいいんだ」


そこから私達は別々の時間を過ごすようになっていった。その出来事は少しだけ私の中にすきま風が吹いただけで、ほとんど生活は変わらなかったのだと思った。付き合っていた頃、彼は部活をしていて、同じ学年でも学科が違っていたから一緒に過ごしていたのだなんてお昼くらいだった。だから、今は1日のほとんどをクラスで過ごすようになったことだけだ。そこで私は理解した。私は彼のことを好きだったけど、必要ではなかったのだ。そしたらなんで付き合ってたんだろう。疑問が私を悩ませる。


告白されたのは去年の11月。初めての星月学園の冬の訪れに私は大層参っていた。同じ女子の月子先輩が平気そうに短いスカートにニーハイを履いているのを見て震え上がっていたくらいには私は参っていたと考えてくれればいい。そんなときだった。梓が声をかけてきたのは。温かいカイロを差し出してきて付き合って、と言われたときには何故だかすんなりとオーケーを出していた。


梓はそのときからとてもきれいだった。


冬も春も夏も梓は私のそばにいてくれた。私は梓かそばにいることが当たり前になっていた。カイロの恋はアイスの恋になっていた。私が夏でもニーハイを履いている月子先輩を見て、暑いと言ったら梓はアイスをくれたからだ。その時の私はもう、完全に梓のことを好きだった。


そう、私の中の梓はいつでもきれいだった。


梓はとてもきれいだった。


私が触ってはいけないくらいにきれいだった。


梓は私にとっての聖域だったのかもしれない。


きれいで、きれいで、きれいすぎた。



春はさようならの季節だと言う。私もこの人に話したら呆れられるであろう、引きずったままの想いからさよならをするべきだ。多分私はまだ梓のことか好き。けれどもうそう思うのもやめるべきなんだ。私には最初から届くはずなかったんだ。手を伸ばしてきたのは梓だけれと、私はそれに自分の手を繋げなかったのだから。


せめて、私のなかできれいなままの梓を残しておきたくて。私はそこで目を閉じた。

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