short | ナノ
私の指には魔法があるの。だから素敵な魔法が使えるのよ。
例えば、私のほっぺをさしたら。ほら、私はいつもよりとてもチャーミングになるわ。
例えば、その手ひとつであなたへ愛を伝えられる。ほら、あなたを指差すだけであなたのことが好きだって伝えられるんだもの。
例えば、私が空を指差せば。ほら、みんなあの青い空を見上げて綺麗、と言うでしょう。
「私の言った言葉は嘘じゃなかったでしょう?この空は青くて、綺麗。それに間違いはないもの。」
「でも、それが雨の日だったらどうするんだ。」
「そしたら…、そうね。あなたの悲しみは雨が流してくれる、って言うわ。」
くすり、と笑ってみせれば一樹はそうか、とぽつりと呟いた。その横顔は生徒会長としての一樹じゃなくてただの不知火一樹だった。私には、見せてくれるその姿。私はその姿を見れたことに安心して、また口角が緩むのがわかった。
私は時々、こう思うときがある。私はあなたの力にはなれないかもしれないけれど、あなたの傍にいることは出来る。だからもう少し頼ってくれちゃっていいじゃない、と。そんなことは一樹は考えたことなんてないだろうし、きっと私は考えさせないようにするだろう。あちらへこちらへ。なんたって私の指は魔法を使えるんだもの。不可能なことなんてないわ、なんてね。
「それに一樹だけに雨が降ったとしたら、その雨を私が追い払ってあげるもの」
「ん?なんか言ったか?」
「…なあんにも、言ってないわよ」
絶対に気づかせてあげない。あなたは私を守っていると思いながら私に守られていればいい。
例えば、一樹が誰にも気づかせないように自分の気持ちを押し込めていたら。そのときは私が思いきり抱きしめて、あなたを甘やかしちゃうくらいまで愛されましょう。
それが私のもうひとつ使える魔法でもあるのだから。