short | ナノ

「知っていたよ。学園には女の子が一人しかいなかったってこともね、ちゃんと。知っていたけど入ったんだよ。だってあなたが入るって聞いたから、だから私は木ノ瀬くんを追いかけるようにして入ったんだ。」

目を閉じたらあなたの姿が浮かんだ。弓道着を着て背筋をピン、と伸ばして弓を構えているところとか教室で静かに本を読んでいるところだとか。私は同じ中学の頃から木ノ瀬くんが好きで、でもなんだか話し掛けられなくて。背中だけを見ている、そんなとてももどかしい恋をしていたの。それは私が臆病者だったからというのは私が1番よくわかってる。


「今ね、私、すごくどきどきしてるの。でもね、私、臆病者じゃないんだよ。だってこうして木ノ瀬くんが目の前にいるんだもの。ねぇ、好きだったの。私、木ノ瀬くんのこと好きだったんだ」

「それは、過去形なんだ?」


手を伸ばせば届く距離。私はこの学園に来て自然に届くという、そんな距離まで、ここまでやってきたというのに。今から私はこの学園を去らなければいけない。たった一年しかいられなかった。金久保先輩が卒業してしまって、でも宮月先輩や月子先輩はまだ学園に残っているのに、私はここから出ていく。


「…まさか、こんな形で離れちゃうなんて、思ってもみなかった。そうじゃなかったら私はこの気持ちを木ノ瀬くんには伝えることもなかっただろうし、ずっと部活仲間なだけだった」

「そんなの、わからないよ。僕はまだ君に何も言っていない。」

「何を言っていないの?私は私のことを一番わかってるつもり。私と木ノ瀬くんはいつまでも、部活仲間のまま。私何言ってるんだろう。ごめんね、私の気持ちを聞いてもらってばっかりで。多分、もう最後だから。最後だから、」


急に私は引っ張られて木ノ瀬くんに抱きしめられる。あまり身長の変わらないはずなのに、やっぱり木ノ瀬くんは男の子だった。だって、こんなにも男の子らしいんだもの。私の心臓が、こんなにもどくんどくんと早く、大きく波打っている。私は今、木ノ瀬くんに抱きしめられてる。そんな実感がじわじわとしていた。


「僕は、君のこと好きなんだ。部活仲間としてじゃないよ、君を女の子として。君が僕のこと好きなことなんてバレバレだ。今だって、そうだろ?」

「違う。今は、私…」

「好きだ、愛しているんだ、離れたくない。ずっと君をこうして捕まえて、僕と一緒にいたいんだ。わかる?僕は、君よりも君のこと好き」


なんで私は離れなければならないんだろう。こんなにも大好きな人が私のことを好きだって言ってくれているのに。さよならなんて、したくないのに。一筋の水が、私の頬を濡らした。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -