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台所に立つのはいつぶりかわからないしもちろん、スーパーで食材を買うだなんてお母さんに頼まれたおつかいかお菓子とか電子レンジでチン、くらいで調理が出来るレベルである。炒める、焼く、などの上級レベルは私は久しくしていない。まだ一人暮らしではなくて親と住んでいるのだから料理をすることがまず、ないんだ。


そんな私が好きな人にチョコレートを手作りするなんて自分で自分に対してびっくりする。友達にはいつもホワイトデーに既製品を渡すような私が、だ。あいつはびっくりするだろうか。女の子らしいところがない私がこんなに雑なラッピングに包まれた手作りのチョコレートが入っている紙袋を持って池袋に来ていることを。おそらくサングラスが目からズレてしまうだろうな、表情が崩れてしまうだろうから。なんだか最初からそんなことを考えながら待つだなんて、女々しいな、私。

「よ、待たせたな」

「静雄。いや、待ってない。待つのも結構楽しい、だから気にしなくていいよ」

「それはよかった。じゃ、どっか行くか?」


今しかない、今がこのチョコレートを渡すときだ。そう、思った。


「静雄、今日はバレンタインだ」

「あ?…その通り、だな」

「私もチョコレートを作ってみたんだ。味は保証出来ないが食べれるはず」


ぽかん、と呆気ない顔をして紙袋を受け取った静雄はやっぱりサングラスが少し、ズレていた。なんだか笑えてしまって、口が開いてしまったのは仕方のないことだ。まぁ、静雄はそのくらいじゃ怒りはしないけれど。特定の人以外、は。


「静雄?」

「正直お前から、貰えるとは思ってなかった。だから、すごく、嬉しい」


顔を真っ赤にさせて、恥ずかしそうに目を伏し目がちにさせている静雄を見ているとこっちまで恥ずかしくなった。サングラスを元に戻して表情がわかりにくくなったことがとても残念だった。あぁ、でも言葉が耳に響いてくる。それだけでも、充分だ。


「ありがとう、俺今、すげぇ幸せもんかもしんねぇ」

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