Episode002:【Chapter01】ゲームだから出来る事

「――本当に傍観を決め込むつもりかね? 〈増悪の戦狂い〉」
 アークがビズギナルギツネと戦闘を始めてから3分が経過した頃、ライアは片眉を持ち上げて、隣に立つ長身の女へ声を掛けた。ただ、視線はアークへ向かったままで、逆月透耶(サカヅキトウヤ)を視野に納める事はない。
 不意に掛けられた質疑に、逆月透耶は鼻で嗤(ワラ)って返した。「――危機的状況になるまで動かねえよ。渾名(あだな)の意味を忘れたか? 〈口先の傍観者〉」
「ふむ」顎に指を添えて小さく首肯するライア。「残念な話だが、新米リーダーとはここでお別れになるのかな。……それも現実、か」ふ、と寂しげな微笑を滲ませるライア。
「だったら手前が加勢してやりゃいいだろ」吐き捨てるように逆月透耶。
「おや? 物忘れが激しいようだね。私の渾名をもうお忘れかね?」片眉を持ち上げるライア。
 2人とも、相手の顔を見ずに皮肉った笑みを口唇に刻む。――変な奴だ、と。
「手は出さないが――」呟き、ライアは足を踏み出した。「口は挟む。それが生き甲斐でね」
「全滅しそうになったら手ェ出してやるよ」鼻で嗤う逆月透耶。「――ま、手前は死んでも構やしねえがな」
「ふむ。私は死なんよ。何せ私は最強の――」「その台詞は聞き飽きたからとっとと行け」「……人の話は最後まで聞けと親に言われなかったかね?」
 勃然(ムッ)とした表情で逆月透耶を見据えるライアだったが、すぐに柔和な微笑に切り替えると、アークにアドバイスでも伝えようか――と思って彼の姿を視野に納めると、円らな翠瞳が驚愕に見開かれた。
 視野に映るビズギナルギツネの数は2匹。6匹いた事は、いくらなんでもライアは記憶している。だが、どこにも4匹の姿はない。あの巨体が隠れるような遮蔽物も見当たらない。
 アークに視線を移す。彼は真剣な表情で1匹のビズギナルギツネを正視している。背後にもう1匹いるが、そちらには一切の意識を向けていない――にも拘らず、学生服の少年の背後を取っている巨大キツネは警戒しているのか、すぐには動き出そうとしなかった。
 握り締めている短剣は、目の高さで地面に水平に構えている。右手で短剣を握り締め、左手で右手の二の腕を掴み、猫背気味にビズギナルギツネを睨み据えて、――肉体は完全に静止している。
 その動きを安全圏から眺めていた逆月透耶は、彼が何を行おうとしているのか、即座に気づいた。
「きゅー!」愛らしい鳴き声と共に4本の足で駆け出す巨大なキツネ。その速さは時速40kmに達しているだろうか。避けられない訳ではないが、巨体を有するキツネのそれは、軽トラが意志を持って突っ込んで来るようなものだ。
 衝突すれば怪我では済まない――と言う訳ではない。ビズギナル平原に分布するビズギナルギツネの突進を受けても、〈ドリーマー〉は簡単に死なない。さすがに何十回と受ければ致死の可能性もあるが、数回程度ではHPバーはほとんど削れない。〈夢落ち〉して間も無い〈ドリーマー〉が【夢世界】に慣れるために用意された雑魚夢魔と言う位置付けなのだろう。
 避ければ済む攻撃。それをアークは、真正面から相対し、あまつさえ動こうとしない。彼我(ひが)の距離は瞬間的に縮まり――アークがアクションを起こしたのは、ビズギナルギツネが自分と接触する、その瞬間だった。
 ビズギナルダガーで牽制するようにビズギナルギツネに突き出すと、――キィンッ、と言う硬質な音声が弾け、ビズギナルギツネの動きが一瞬だけ硬直する。その間隙を縫うように、アークはビズギナルギツネに斬撃を加えていく。通常攻撃とは言え、素早く短剣を振り抜くだけでダメージは蓄積され、やがてビズギナルギツネの頭上に浮かんでいたHPバーが消滅し、「けーん」と物悲しげな断末魔の叫びを上げると、巨体が透明化し、やがてその姿は視界から消え失せる。
 斬撃を加えている間に突進を開始していた、最後のビズギナルギツネがアークへ肉薄する。アークはそれを足音で察したのだろう、勝利の余韻に浸る間もなく振り返り、――歯を食い縛るように意識を鋭敏化させると、再び彼我の距離が絶無になった瞬間にビズギナルダガーを振り抜く。そのアクションによって動きが硬直したビズギナルギツネへ斬撃を加え――遂に最後の脅威も消え失せる。

◇――◇――◇

「……ふぅ…………これで全部か」
 張り詰めていた空気が抜け、俺は全身に疲労感が覆い被さってきたような感覚に侵された。メチャクチャしんどい……
 大の字になって寝転がり、「疲れたーっ!」と大声を張り上げると、ちょっとだけスッキリした。
「――素晴らしいじゃないか、アーク君」頭上から足音が聞こえ、続けて幼い女声が鼓膜に届いた。「見直したよ。DR2でそんな動きが出来る〈ドリーマー〉は初めて見るよ」
 ……褒められるとやっぱり嬉しいんだけど、正直、今は疲労感の方が勝ってて、それ以上は何も感じなかった。「……そりゃ、……どーも……」
「――まさか“パリィ”を使えるとはな。しかも盾を使わずに、だ」
 ライアの後から来たのだろう、遅れて逆月の声が降り注ぐ。パリィ……? と言われても、俺には何の事だか判らなかった。
「何、その……パリィ、って……?」息も絶え絶えに声を吐き出す俺。
「とあるRPGが発祥とされる、防御スキルだよ。某ゲームでは盾を使い、敵の物理攻撃を無効化する、と言う効果だったらしい。最近のゲームでも時折、その名前が出てくる事があるんだがね」
 盾を使い、物理攻撃を無効化……。確かに、俺のやっていたアクションと同じ……と言えなくもない。でも……
「……アレってパリィって言うのかな……俺は単に、キツネが怯む瞬間を狙って攻撃し続けただけだから……」途方も無い疲労感に襲われながらも、俺は説明を続ける。「あのキツネ、突進攻撃で直撃する寸前、搗(か)ち上げるように鼻を上げるんだよ。イノシシみたいにな。その瞬間に鼻を攻撃したら、怯むんだ。何回も攻撃を受けて確認して、確証が取れたら後はそこに注意して攻撃を加えれば……って、誰にでも出来る事だろ?」
 俺の説明の仕方が悪かったのか、3人ともしばらくの間、言葉を返してくれなかった。俺の解り難い説明を頭の中で整理しているのだと思い、俺はめい目して疲れを癒そうとした。
「――すっごいじゃん!」と言う喚声と共に、腹部に圧迫感が飛来した。「うごぇぇ」肺に溜まっていた気息(きそく)が押し潰されて吐き出された。
「アークくんって、実はスゴい〈ドリーマー〉だったのっ!?」腹部を圧迫しながらコロロ。
「うぐぇえっふ……スゴくない、スゴくない……ちょ……食べてもないのに……何か、出てきそうなんだけど……」あまりの息苦しさに死にそうです……あはは、これが【冥界】なのかな……。
 意識が飛びそうな最中、コロロの首根っこを掴んで持ち上げる逆月の姿が映った。おぉ……貴女が女神でしたか……と視界が滲みそうになる。
「ステータスウィンドウで確認してみろ。さっきまでなかったスキルを習得してんじゃねえか?」
「へ?」女神・逆月から、普通の逆月に戻り、俺は疲労にさいなまれながらも起き上がると、「ステータス」と告げて、ステータスウィンドウを表示させる。手早く操作してスキル一覧画面に切り替えると……
「あれ? SPが減ってる……」
 先刻、DRが2になった時にSPを5つもらえた。初期のSPは5だったから、合計“10”になってないと計算が合わないが、何故か“6”になっている。どういう事? と小首を傾げていると、「SPを使わずに所持している状態で特殊なアクションを独力で行なうと、稀に特殊なスキルを習得する事があるんだよ」ライアが明快な説明をしてくれた。
「特殊なスキルを習得だと!?」思わずスキル一覧を上から順に確認していく。何だろう何だろうとワクワクしながら読み進めていくと、「『後の先』と『狙い打ち』、それから……『慧眼』に、『応じ斬り』……が、何故かどれも熟練度2になってるんだけど」そもそもスキルを習得するのにSPを1消費するハズだから、熟練度が2になっているのなら、SPは8消費されるんじゃ……とまたも小首を傾げてしまう。
「SPを振って習得したスキルでもそうだが、実際にそのアクションを起こし続ければ自動で熟練度が上がっていく。そうやって熟練度を上げた時は、SPが消費されない事がある。あくまで確率だから、絶対じゃないらしいが」
「ふむ。説明下手な透耶君にしてはマトモな説明じゃないか」満足そうに頷くライア。「『後の先』も『狙い打ち』も『慧眼』も、そして『応じ斬り』も、いずれも、君が望んでいた戦闘系のスキルだよ。レアかどうかはさておき、だがね」
「そっかぁ……」俺は一つ頷くと、ステータスウィンドウを閉じた。「……へへへ、特殊なスキルが4つも手に入るなんて……幸先いいナァ♪」
 そう言って立ち上がろうとして――尻餅を着いた。あれ、何故だろう、膝に力が入らない……
「お、俺こんなに体力がなかったのか……?」元の世界の体力がなくなってしまってるのか……?
「――アーク君。君の視界左下に、3つのゲージが映っていると思うんだが、その真ん中のゲージ、どうなっているかね?」穏やかな微笑を滲ませて俺を見つめるライア。
 真ん中のゲージ。俺は見た。「か、空っぽだ……」確かTP――“テクニカルポイント”ってゲージだったか……スキルを行使すると減るって、ナヴィが言ってたっけ……。「――って、ちょと待って。俺、スキルなんて使って――」そこでハッとする。「もしかして……」
「ふむ。呑み込みが早くて助かるよ。――君は『後の先』、『狙い打ち』、『慧眼』、『応じ斬り』……これらのスキルを意図せず乱用してしまったようだね。いずれのスキルも相応のTPを使用するだろうに」
 再びステータスウィンドウを出現させ、スキル一覧を見て……『後の先』が2ポイント、『狙い打ち』が3ポイント、『慧眼』が4ポイント、『応じ斬り』が2ポイント消費になっている事を確認した。
「……ちなみに、なんだが」俺はステータスウィンドウを閉じてライアに視線を向けた。「DR2の時って、TPってどれくらいあるんだ?」
「100だよ〜♪」ライアより先にコロロが口に出した。「TPの上限を増やしたかったら、『TPブースト』ってスキルを習得するか、TPを上昇させるアイテムを使用するしか手はないんだよ〜♪ DRが上がっても、基本的にHPもTPもMPも増えないんだ〜♪」
「マジか!?」驚愕の声を張り上げる俺。レベルアップ……DR上昇でステータスが強化されないなんて……シビアな世界だ。獲得したSP……スキルポイントを慎重に割り振って、自分を成長させなくてはならないとは……恐るべし、【夢世界】。これが本当にゲームならば、自由度高過ぎ……だと思う。
「つまり、ステータス極振りしていけば……」ブツブツと呟く俺に、「当然、極振りな〈ドリーマー〉になるぞ」皮肉った笑みを浮かべて答える逆月。
 ……これは、面白くなってきた……!
「よーしっ、もういっちょ戦闘してくるっ! DR2で習得可能なスキルをバンバン習得して――」と勢いづいて立ち上がろうとしたが、再び頭がクラッと来て尻餅を着く俺。「……だ、誰か、回復アイテムをお願いします……」
「ごめんね〜、ボク、回復アイテムは自分用しか持ってないんだー」えへへー、とはにかむコロロ。
「その調子でどんどん状況を悪くしてくれ。そしたらあたしの出番も近い」ふん、と鼻で嗤う逆月。
「人に物を頼む時の態度を知っているかね? 交渉とは、魅力的な代価がなければ成立しないのだよ」朗らかな微笑でライア。
 …………俺はしばらく仰向けに倒れたまま、沈黙を貫いた。
 空は相変わらず薄い靄が掛かっているが、サンサンと柔らかな光が降り注いでいる。柔らかな光は瞳に優しく、見つめていても痛くならない。それを眺めていると、すべてがどうでもよくなってきた。瞼(まぶた)を下ろして、ふぅ、と力を抜いていく。
「――おやふみ」睡眠宣言をして、俺はそのまま意識を剥離していった。

◇――◇――◇

「……おい、どうするつもりだ? リーダーを置いて“ファストム”へ向かうのか?」
 アークがスヤスヤと気持ち良さそうに寝こけている姿を見下ろして、逆月透耶が眉根をひそめて口を開く。就寝宣言をして3秒と経たずに熟睡へ移行しているパーティリーダーを見る彼女の顔は、言わずもがな、呆れていた。
「私はそれでも構わないが、私達3人で無事にファストムまで辿り着けると思うかね?」
 草原でグースカ眠りこけているアークを、逆月透耶と挟む形で立ち尽くしているライアが澄まし顔で対面の女を見やる。対する逆月透耶も、「――無事では済まないだろうな」と吐き捨てるように応じる。
「ねぇねぇ、早く起こさないとまた襲われちゃうんじゃない? ここ、ビズギナルギツネの群棲地でしょ〜? 透耶ちゃんがその子を放してあげない限り、ずぅーっと危険地帯じゃなーいーっ?」
 アークの鼻を摘まんだり、瞼を無理やり開けたり、頬を突付いたりしながら、コロロは逆月透耶を見上げる。その視線の先には、ビズギナルギツネの幼生が今尚、抱えられている。逆月透耶は思い出したようにモフモフの塊を頬に擦りつけると、そっと地面に下ろし、放してやった。仔ギツネはこちらを見つめて険しい表情を浮かべると、逃げるように去って行った。
「おや? 殺さないのかね?」思わずと言った様子で逆月透耶を見上げるライア。「君らしくないな」
「可愛い奴は殺したくない。もとより、敵意のない者は殺めん」ふん、とそっぽを向く逆月透耶。
「ビズギナルギツネは可愛いよね〜♪ ドロップアイテムの“ビズギナルギツネの油揚げ”とか、とっても美味しいもんね〜♪」ヨダレを垂らしながらコロロ。
「――なるほど。コロロ君はよほど餓(う)えた生活をしていると見える。誤ってアーク君を食べぬようにな」ふ、と澄ました笑顔を浮かべるライア。
「さすがに〈ドリーマー〉は食べないよ〜♪ ……でも、透耶ちゃんってネコっぽいよね……」じゅるり、とヨダレを拭うコロロ。
「おい、こっち見んな。こっち来んな! 殺すぞ!!」思わず手が柄に触れる逆月透耶。
「ボク……ちょっとお腹減ってんだ……ちょこっとでいいからぁ〜、一口だけっ、ねっ?」じゅるじゅるとヨダレを垂らしながら歩み寄るコロロ。
「寄らば斬る!!」遂に抜刀する逆月透耶。その意気に驚き、「うわぁっ」とよろめくコロロ。その拍子につまずき、「うきゃっ!」――尻餅を着いた。「もがッ」と同時に、お尻の方から呻き声が漏れた。途端、コロロの顔が真っ赤に燃え上がり、「うひゃあーっ!」と飛び上がる。持ち上げた尻の下には、白目を剥いたアークの顔があった。
「……死んだ、かな?」醒めた表情で見下ろす逆月透耶。
「幸運なのか不運なのか判別し難い死に方だね」うんうんと頷くライア。
「うわーんっ、もうっ! アークくんのエッチぃ!!」ゲシゲシとアークの体に蹴りを入れるコロロ。
 アークはしばらく目覚めなかったと言う。

◇――◇――◇

「――なぁ、教えてくれ。休憩スキルが発動していたのに、どうして俺のHPは末期なんだろうか」
 相変わらず薄い靄に覆われた明るい空の下。俺は鏡を見なくとも、自分の顔がボコボコになっている事に気づいていた。視界左下に映っているHPゲージはもう間も無く0になる程の短さで、TPとMPしか回復していない。……寝たら回復すると思ったら、寝る前よりも減ってるってどういう事だドルァ。
 俺の発した質問に答える〈ドリーマー〉はいなかった。3人とも、咳払いしたりそっぽ向いたりするだけ。……ちょっと、詳しく説明してもらおうか、なぁ?
「ん、んもー、仕方ないなぁアークくんはっ。今回だけは特別だよっ? はい、回復薬〜♪」汗を掻きながら俺に緑色の液体を手渡してくるコロロ。……手が震えてますよ?
「……コロロさんや。あんた確か、自分用の回復アイテムしか持っていないとか吐(ぬ)かしてませんでしたかね?」ギギギ、と錆びついた動きで首を動かしてコロロを見据える。
「うえぇっ!? あっ、そっ、それはねっ! 探してみたら1つだけ残ってたんだよ〜♪」動揺を隠しきれない様子で髪をいじり始めるコロロさん。
「……そっかぁ。……うん、まぁいいや。――ありがとな」にへら、と礼を言ってから緑色の液体が入ったビンを口許に運ぶ俺。
 一口飲んでみる。……薬って言うより、ただの炭酸飲料水みたいなんだが……とコロロに文句を言おうと顔を上げた時、HPバーが少しだけ増えた事に気づいた。文句を言う前にもう一口、二口と飲んでいくと、HPバーが徐々に回復していくのが判った。同時に、先刻まで死にかけそうなくらいに襲われていた倦怠感(けんたいかん)が鳴りを潜めていく感覚に気づいた。
「うおぉ……スゴいな、回復薬。美味しい上に、ちゃんと回復するとは……」飲み干したビンを見つめながら感嘆する俺。
「ふむ? 美味しかった? だとしたら市販の回復薬ではないね。市販の回復薬は苦いんだ。慣れてなければ吐きそうになる程に、ね」
 説明を受け、俺もそうだが逆月もライアも、コロロに視線が集中する。彼女は「えへへー」と頭を掻き掻き。
「ボク、苦いのは苦手でさー。回復薬は自分で調合して、甘くて美味しい薬にして飲んでるんだ〜♪」
「そんな事が出来るのか! こりゃ調合スキルも考えなきゃだな〜。甘くて美味しい薬なんて、画期的過ぎるだろ」魅力的過ぎてこれ以上回復薬を飲むのを躊躇ってしまう。
「確かにな。良薬口に苦しのコトワザが殺されそうじゃねえか」珍しく感嘆したような表情で逆月。
「普及すれば病人や怪我人にとって朗報になる事は間違いないだろうね。いずれ私にもそのレシピを教えてもらいたいものだよ」穏やかな微笑を湛えてライア。
 俺だけでなく、2人の〈ドリーマー〉からも賛辞を受けたからだろうか、コロロは「えへへ〜♪」と嬉しそうに頬に朱を差している。
「俺にも教えてくれよなっ! ――さて、体力も回復した事だし、改めて出発しようぜ!」ぱん、と両手を打ち鳴らす俺。
「アークく〜ん。出発も何も――」背後を振り返るコロロ。「まだスライトンがそこにあるんだけどー」
「え」思わず振り返ると、確かに大きくも鄙(ひな)びた都・スライトンの外壁と、天高くそびえる“境界塔”が視界に映る。ぜ、全然進んでなかったのか……と、愕然とする俺。
「そう急ぐ旅でもあるまい」ぽん、と俺の背中を叩くライア。「のんびり行こうじゃないか、アーク君。クエストはどこにも逃げないよ」
「……そうだよな。よーし、んじゃまビズギナルギツネで経験値稼ぎながら、のんびりゴーっ、だ!」
 歩みは遅いけれど、再び一歩ずつ前へ歩き出す。そうだよ、冒険はまだ始まったばかりなんだ。その言葉を噛み締めるように笑むと、俺は遥か前方を見晴るかした。どこまでも続く草原の先には、まだ見ぬ夢幻の世界が広がっているのだと思うと、ワクワクした気持ちを抑える事など出来なかった。

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