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嗚呼、踏み込む勇気すら(財前)

『財前くん!!』

笑いながら俺に話しかけてくるコスモス先輩。

3年やから、もうマネージャー業も終わってもうて、
今は、高校受験のために勉強に専念しとるハズなんやけど…




「何すか?」



俺がどんなに冷たく返そうとも、




『元気にやってるかなって心配になってん。様子見に来た。』


ニコニコと人の良さそうな笑顔を俺に向ける。






「フツーっすわ。」



『そうか。うまくやれてるんだね。白石君も部長らしくなったみたいやね。』





懐かしげな目で、コートを見る先輩はきれいやった。










正直なとこ、こんな大勢おる、テニス部の中で
一番最初に話しかけて来てくれるんは、嬉しい。


生意気な1年なのに、ニコニコと話してくれるんも嬉しかった。







『あ!!一番に財前君に報告したいことがあってん。』




先輩はひと際嬉しそうな顔をする。






「なんですの?」




『ウチな、彼氏出来てん!!
本当はそれを、可愛い後輩の財前に一番に報告したくて、今日来たねん。』









一番聞きたくない言葉だった。

大好きな先輩に彼氏が出来たなんて信じたくない。











「そっすか。」





テキト―に返事をして、コートに戻る。















もう少し早くに先輩に出会って、
少しだけ勇気を振り絞っていれば…




そう考えたってもう後の祭りや。









「アホやな俺。」





小さな呟きが、大きな空へと消えていく。










嗚呼、踏み込む勇気すら


あの時の俺には、勇気が足りへんかったんや。

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