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9 付いていってもいいですか?





 年末年始だからといって、天下の雄英がだらだらと長い休みをくれるわけではない。現に湊は常闇とともに一日の夕方には福岡にいたし、二日は朝からインターンの予定であった。
「お、二人とも早いですね」
「ホークス」
「あけましておめでとうございます」
 立ち寄った事務所で出会したホークスは、いつも通りの薄い笑みを浮かべたまま「はい、おめでとうございます」と返す。
「インターンは明日からですよね」
「はい。しかし、始発でも始業に間に合わないので」
 移動時間があるので、朝に雄英を出ていては着くのは昼になってしまう。インターンの時間をできるだけ確保するため、前乗りをするのは当たり前だった。都度ホテルを用意してもらっているので、そのあたりの話を聞かなければならず事務所へと立ち寄ったまでだった。大荷物のままで立っていればホークスはまるで何か値踏みをするように湊のことを見た。
「実は俺、これから名古屋なんですよ。それに、立て込んでるんで、しばらくサイドキックたちと活動してほしくて」
 またこの展開か、と湊は少しむっとむくれた。前は湊が強く主張することで、ホークス自身が湊のことを見てくれる気になったようだった。また試されているのだろうか。常闇は「承知した」と頷いているけれど、湊は食い下がる。
「付いていってもいいですか?」
「……聞いてました? 名古屋までですよ」
「構わないです。今日は個性使ってないので、フルで使用可能です」
「今日の分は給料出ませんけど」
「構いません。自己研鑽です」
 何を言われても折れない姿勢を見せる湊に、ホークスはハァ、と呆れたようにため息をついた。
「じゃ、勝手にどーぞ」
「ありがとうございます! 常闇くん、シザーネールさんたちに伝えておいて!」
 て、と言い切るのとほぼ同時に、荷物ごと自分をテレポートした。窓から飛び出したホークスを追って、高度そのまま宙に放り出される。自由落下の感覚を味わいながら、これから個性を乱用するのなら、隙を見て手袋と、ゴーグルはしたほうがいいかと考えた。

 荷物が邪魔だけれど、これから名古屋に行ってそのあとどこかへ行くことを考えると、事務所やホテルに置いてくるわけにもいかなかった。身一つより重量がある分、疲労も早いだろう。どうするかな、と思っていれば、びゅう、と風を切っていたホークスが博多駅近くで立ち止まった。その隣に湊がテレポートすると、それを確認したホークスは駅構内に向かって歩き出す。
「その格好で個性使うの良くないんじゃないですか? 下からパンツ見えますよ」
「いつ何があってもいいように、スカートの下に履いてますので」
 そりゃそうか、と言いながらホークスは新幹線のチケット売り場へ近づいて、チケットを購入する。
「えっ、新幹線で行くんですか?」
「逆に、本気で名古屋までテレポートする気やったと? 750キロ」
「……半ば」
 湊は日本地図をある程度、距離も含めて頭に入れているから、ここから名古屋までの距離もほぼ正確に知っている。正直なところ、現実的に考えればどこかで諦めることになるだろうとは思っていた。モチベーションを示すことがこの人には大事なのではないかと湊は短い付き合いで思っていたものだから、実際にできるかどうかは一旦度外視して口にしてしまったし、行動したのも事実だ。
「本当、向こう見ずなところありますよね。無理でしょ普通に」
「……すみません。私のせいですよね、新幹線」
「まぁたまにはいいじゃないですか」
 ホークス一人なら飛んで行っていたはずなのに、彼はなんてことはなさそうにひらひらとチケットを手に、新幹線のホームへと向かう。途中のコーヒースタンドでカフェオレとジュースを買って、新幹線へ乗り込んだ。座席はグリーン席なのに、羽が窮屈そうだ。
「どうでした? 年末年始」
 ホークスは、買ったジュースを湊の席のドリンクホルダーへ置きながら言う。お言葉に甘えて、ちゅう、と一口吸った。
「楽しかったです。外出禁止だったので外には出てないのですが、テレビを見たりして」
「紅白?」
「いえ、が……き、つか? というバラエティを」
 あー、有名なやつ。というホークスもあまり詳しくはないようだった。ヒーローは年末年始忙しいと言っていたから、あまり見る機会がないのかもしれない。
「ま、楽しかったなら何よりです。君、ずっと張り詰めた生活してそうだし」
「そんなことはないですけど」
「信用ならんねぇ」
 くすくす、と笑っているホークスと、なんだかまた随分打ち解けられたようだ。何がきっかけだったのかは正直わからなかったが、嬉しいことには違いないのでまぁいいか、と思った。考えたってわかりっこない。

 名古屋での仕事というのはチームアップ要請だったようで、ついてすぐに情報共有ののち、事件解決にあたって終了。軽視してはいけないけれど、ホークスが出向く必要があったのかというほどだった。
「こういうのもNo.2の仕事ですからね」
 本日の滞在先であるホテルで、各々部屋を取った。部屋に向かうエレベーターで、少し思ったことが顔に出てしまっていたのか、ホークスがなんてことはないように言った。
「私は別に……」
「あれ? そうですか? 出向かなくてもよかったんじゃって思ってませんでした?」
 どうしてこういらないことばかり鋭いのだろうなと、苦々しい気持ちが胸に広がった。湊がどう思っていようがそんなこと、どうだっていいはずなのに。
「……そうですね。今日いた人たちで対応できたんじゃないかと思ってました」
「まぁまぁ。別にかまわないですよ、俺の手の回るうちはね。苦手に向かってくのって心理的ハードルが高くなるものでしょう」
 ぽんぽん、とホークスの手が湊の頭を軽く叩いた。

「それじゃ、明日は俺ちょっと野暮用で出ます。あ、これはついて来たらダメなやつなんでホテルにいてください。昼前くらいには連絡するんで、用意だけはしといてもらって」
「承知しました。ではお疲れ様でした」
「一応言っとくと、そのあと東へ行くんで。心づもりだけしといてください。おやすみなさい」
 ヒラヒラ、と手を振って廊下の先へ消えていった。
 心づもりというのはおそらく、明日は公共交通機関ではなくいつも通り、飛んで移動するということなのだろう。しかも東と方角指定だったということは、それなりの距離。気合を入れなければ、と同時に、今日は早く寝なければ、と湊も部屋の扉を開いた。


2022/10/16


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